二週間の恋人(13)

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12話

 日曜日は全身に走る鈍い痛みのせいで、一日動くのが辛かった。筋肉痛が翌日に出るのは若い証だ、と自分を慰めつつ、月曜日もまだうまく動かない身体を叱咤して、出勤した。

 車を停めて、そろりそろりと職員玄関へと向かう途中で、「瀬川先生」と声をかけられた。

「校長先生……」

 彼はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイもしていなかった。袖を捲り、そこには学校長の威厳はない。首にはタオルを巻き、薄くなった頭を日光から守るべく、麦わら帽子を被ったその姿は、農家の親父そのものである。

「おはようございます。花壇の手入れですか? 精が出ますね」

 校舎前には花壇がある。校長が整備する前は、打ち捨てられた雑草だらけだったそこは、今や色とりどりの花が溢れんばかりに咲いている。悲しいことに、男子校であるせいか、気に止める生徒はほとんどいなかったが、校長は気にせず、毎朝土いじりを続けている。

「今年は五月まで、寒かったからねぇ。今の時期に、春の花が咲いているよ」

「そうなんですか」

 要は花に目を向けた。生徒だけではなく、要もまた、今まで花を愛でることなど、一度もなかった。水をやったばかりなのか、花弁には水の粒が溜まっていて、より一層鮮やかな色合いを演出している。

「きれいですね」

 そう言った要を、校長はにこにこと見つめていた。

「瀬川先生は、最近少し、変わったね」

「え?」

 ふくふくと丸い身体の校長は、要よりも十センチ以上、背が低い。けれど、誰よりも大きいと、要は思っている。

「……いや、戻ったのかもしれないね」

北見きたみ、先生」

「その名前で呼ばれるのは、久しぶりだなぁ」

 僕の名前なんて、今や誰も覚えてないんじゃないかっていうくらい、「校長先生」という呼び名が定着しているよ、と校長は笑った。

「……いえ、俺にとっては今も昔も、北見先生ですよ。数学の面白さや奥深さを教えてくれたのは、北見先生です。先生がいなかったら、東大なんて、目指そうとも思わなかったですから」

 北見校長は、要の恩師だった。高校時代は数学を教わり、実習生として戻ってきたときには、教師としての心構えを教えられた。そして、ここに勤めるようになったのも、校長のおかげだった。

 その彼が「戻った」と要を評したということは、つまりはそういうことなのだろう。

 要は一礼して、玄関をくぐった。

14話

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