二週間の恋人(15)

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14話

 せっかくの週末なのに、どんよりとした雲が覆っていた。念のために傘を積んで、要は朝から車を走らせていた。

 毎月この日だけは、たとえ平日であったとしても、要は早起きして、函館山の麓へと向かう。途中、早朝から開いている店で花を買い、要は車を駐車場に止めると、霊園へと歩みを進めた。

「せんせ」

 彼の眠る墓場だ。一瞬、目の前の姿を幽霊と錯覚した。まだ、脳が眠っていたのかもしれない。要は首を横に振って、青年を睨みつけた。

「……新田、どうしてここにいるんだ」

「ある人が、瀬川先生は今日、絶対にここに来るって教えてくれました」

 その人の名前を、俊平は決して教えてくれないだろう。要はしばらく、「帰れ」という気持ちを込めた視線で俊平を射抜いたが、効果はなかった。溜息をついて、要は颯爽と、霊園の入り口を通った。何も言わないことを察し、俊平も黙って要の後ろについてくる。

 桶を借りて、水を汲む。俊平が勝手に持とうとしたので、強引に自分の手元に引き取った。俊平は不満そうだったが、要がずんずんと突き進むものだから、何も言わなかった。

 ある墓石の前で、要は立ち止まった。一度手を合わせてから、枯れた花をゴミ袋に回収した。持参したタオルで墓石を拭く。先月来たときよりも、苔むしていたので、念入りに磨いた。

 周りに生えた雑草も、要はぶちぶちと抜いた。俊平も黙々と手伝っていた。ありがたいとは思わなかった。自分一人でも、できることだ。

 最後に、墓のてっぺんから水をかけ、花を活けた。ろうそくに火をつけ、線香を立てる。

 両手を合わせ、目を閉じる。隣の俊平も、ここに眠るのが誰なのかわからないまま、同じようにしていることが、気配でわかった。

 数分間、そうしていた。要が目を開けるのを待ち構えていたように、俊平が、当然の質問をしてくる。

「先生。ここに眠っているのは、どなたなんですか?」

 笠原、と墓石には刻まれている。要の家の墓ではないことは、俊平にもわかっている。要は俊平に、向き直った。

 よく見れば、似ているようで、似ていない。身体が大きいところと、明るい性格は同じ。でも、彼は俊平のように目が大きくなかったし、脚も長くなかった。今で言う、雰囲気イケメンっていう奴だったのだな、と、要は本物のイケメンを目の前にして、そう思った。

「八年前、お前の告白を断ったとき、ひとつだけ俺は、嘘をついた」

「嘘」

 言いたくない、直視できない過去のことを、要は語らなかった。

「一度だけ。男を、好きになったことがある」

 墓石に触れて、笠原陽介と刻まれた名前をなぞる。享年二十二歳。

「俺の、親友」

 そして一瞬だけ、恋人だった男の墓。

16話

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