二週間の恋人(8)

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7話

 散々押し問答をやりあった末、折れたのは要の方だった。若さは勢いがあり、かつ、粘り強い。あまりのしつこさに、呆れて頷いた瞬間、俊平が近づいてきたので、慌てて拒絶した。

 学校では、何もしないこと。要は約束を徹底させた。キスは勿論だが、ハグも駄目。口説いてきたら、その時点で期間限定の恋人関係は解消する。

 そう、真顔で言うと、俊平はすぐに離れた。要はほっとしていた。実習生は忙しく、校内での特別な接触を禁止された俊平は、要には何もできない。要が俊平に惹かれることだって、ない、はずだ。きっと。

 俊平は、期限を二週間後の水曜日に設定した。その日は実習の成果を多くの教員の前で発表する、研究発表の日で、区切りとしてはちょうどいいだろう。考えることも嫌になっていた要は、それでいいよ、と投げやりな返事をした。

 翌水曜日から、俊平と要は恋人同士としての関係をスタートさせた。とはいえ、最初の二日間とさほど変わらない。変化があったといえば、俊平が、二人きりの際に要を呼ぶときに、「せんせ」と甘い声で呼びかけるくらいだ。

「しゅんぺーせんせー、おはようございます!」

「おー、おはよう!」

 すれ違いざまに、生徒たちは俊平に元気よく挨拶をする。様子を伺っていると、俊平は軽いフットワークを活かして、生徒たちにすすす、と近寄っていき、自分から話しかけている。朝食を抜いたのか、青白い顔をしている生徒には、「内緒だぞ」と言って、ポケットから飴を取り出して渡していた。

「新田先生」

 声をかけると、あからさまに俊平は、「やっべ」という顔をした。嘘をつけない男である。大きな背中に生徒を庇って逃がし、あははは、と彼は乾いた声で笑う。

「……生徒と物のやり取りをすることは」

「禁止ですよね。はい、申し訳ありません」

 俊平は、生徒に気に入られようとしたわけではなくて、貧血で倒れることがないように気遣っただけだということがわかっているから、要は「今後気をつけるように」とだけ言って、今回だけは不問にした。

「それより、今日の二時間目から授業実習だが、準備は大丈夫か?」

 俊平は胸を張って、頷いた。それでも最終チェックはしておいた方がいいだろう。一時間目の空き時間に、板書案のチェックをすると言うと、俊平はほっとした顔をした。

「緊張しているみたいだな」

「そりゃあ……俺だって、人間ですし。緊張もしますよ!」

 拗ねて唇を尖らせた俊平に、要は「そうか」と微かに笑った。その横をすり抜けていった、遅刻すれすれの生徒が、「瀬川せんせー、俊平せんせー、おはよーございますっ!」と叫んでいる。

「お前ら! 廊下は走るなよ!」

 俊平が負けじと大きな声を張り上げると、元気な返事と、どたばたという足音が返ってきた。

 要が一人で歩いているときは、彼らはあんな風に元気な挨拶をしない。常に眉間に皺を寄せているわけではないが、眼鏡で表情が読み取りにくくて、近寄りがたいのかもしれない。前髪が伸びすぎているせいもあるだろうか。本格的に夏になる前に、切りにいこうと心に決めた。

「今日のホームルームの進行は、まかせたぞ」

 要は俊平の胸を軽く叩き、信頼を表現した。その途端に、俊平は表情をキリリと改めて、大きく頷いた。

9話

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