偽りの魔法は愛にとける

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偽りの魔法は愛にとける(10)

<<はじめから読む! <9話  部下に指示を飛ばしながら、海老沢は自分の作業を進めていく。パソコンの画面と向き合い、会議資料をまとめる。  いつもよりも集中できている。だが、前髪がはらりと落ちて額に触れる度に、キーボードの音が止まる。髪の刺...
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偽りの魔法は愛にとける(9)

<<はじめから読む! <8話 「う……えぇぇ……」  今食べたばかりの食べ物が、形を保ったまま喉を通り抜ける苦痛に、海老沢は倒れ込んだ。皿の上に全部吐き戻してしまう。まだエビフライが残っているのに。 「エビくん!」  優は慌てて海老沢の背中...
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偽りの魔法は愛にとける(8)

<<はじめから読む! <7話 「ねえ、エビくん」 「は、はい?」  ようやく調理補助にも慣れてきた海老沢だったが、現在の心配事は二つ。 「叔父さん、もう店に来ないのかな? 何か聞いてる?」  海老沢が三十八歳の会社員として来店したのは一度き...
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偽りの魔法は愛にとける(7)

<<はじめから読む! <6話 「つ、疲れた……」  どうしても残業をしなければならなくなった一日を、海老沢は憂鬱に過ごした。本当ならば今日は、店を手伝いに行こうと思っていたのに。すでに開店時間は過ぎてしまっている。  昼の間に今日の残業はわ...
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偽りの魔法は愛にとける(6)

<<はじめから読む! <5話  定時の午後五時。メロディーが鳴り始めるやいなや、海老沢は作業中のデータを保存して、いそいそと帰り支度を始める。  チームが若手主体のため、経験の浅い人間にこの仕事は託せない、と抱え込み、残業することも多かった...
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偽りの魔法は愛にとける(5)

<<はじめから読む! <4話  元はバーとして営業していた店舗は、「ステラ」より少し広い。カウンター席は六席。テーブル席の用意もある。カジュアルな雰囲気で、一見の客も入りやすく、それでいて大人の社交場であるバーの空気感を壊さないように工夫が...
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偽りの魔法は愛にとける(4)

<<はじめから読む! <3話  久々の飲酒で痛む頭を押さえながら目覚めた、翌土曜日。気怠い身体をソファにだらりと預けた海老沢の手には、昨夜ママから渡された、魔法のキャンディーの瓶がある。  一つ舐めれば、三時間は二十歳の頃の姿になれる。昔の...
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偽りの魔法は愛にとける(3)

<<はじめから読む! <2話 「本当は、入る気でいたんだよ。でも、中から若い女の子が出てきて、怖気づいちゃったんだ」  若さは男女限らず、恋愛における一種の武器だと海老沢は思う。恋で深手を負ったことがないから、失恋しても吹っ切れるのが早い。...
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偽りの魔法は愛にとける(2)

<1話  東京に就職してよかったことは、田舎とは違い、ゲイコミュニティへの参加が比較的容易なことだ。  いわゆる「二丁目」と言われる界隈以外にも、飲み屋街のはずれにはひとつふたつ、ゲイが多く集まる店がある。インターネットで少し調べれば、簡単...
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偽りの魔法は愛にとける(1)

名刺サイズのショップカードとスマホの地図を見比べる。  ここだ、と看板を見上げる海老沢えびさわの髪の毛を、生温い風が揺らした。  真鍮製のドアノブがついた扉は、レトロな重厚感が漂っていて、店に流れた月日を感じさせる。店主はまだ若く、まだ二十...
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