ホラー 魔のめざめ 濃い灰色の雲が、重苦しく立ちこめる朝だった。鶏が鳴いても、太陽が顔を出さない。春とは名ばかりの、肌寒い日。 暖炉に火をつけるかどうか、姑と夫は軽く言い合いをしていた。 数日前、もう暖房は必要ないだろうと結論していたため、夫は火を炊くことに消... 2024.04.18 ホラー短編小説
ホラー 豊嶋玲子に関する考察 『豊嶋とよしま玲子れいこは、A県出身の女優だった。昭和〇〇年に上京し、Xという劇団に所属した。地元では評判の小町娘だったが、舞台では主役はおろか、せりふのある役につくこともほとんどなかった。 彼女が有名なのは、女優としての功績ではない。日本... 2022.06.03 ホラー短編小説
ホラー 蒐集家(コレクター) それは、一人の女だった。私は棒立ちになり、一歩も動けないまま息を呑み、見つめていた。 彼女は豊満な肉体のすべてを露わにしていた。一糸纏わぬ女など、私は人生の中で母以外に見たことはなかったし、それすら幼い頃の記憶を掘り起こさなければ出てこない... 2022.04.06 ホラー短編小説
ホラー 前へならえ 運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。 どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。 特に、レギュラー争いに一ミリも関わって... 2022.04.01 ホラー短編小説青春
ホラー 雨宿り ギギ……チリン。 あら、いらっしゃい。初めてのお客さんね。 こんな天気だから、お客さんも来ないし、もう閉めちゃおうと思っていたの。ああ、大丈夫! 追い出したりしないわ。 迷惑なんかじゃない。来てくれて嬉しいわ。あなたを待っていたの……なんて... 2022.02.04 ホラー短編小説
ホラー リトライアンドエラー やってきたバスに乗り込んで、ほっと一息ついた。 東京から新幹線で、三時間弱。そしてさらに、地元の電車に乗った。だいぶ北にやってきたので、涼しいと思っていた。なのに、真夏の太陽は容赦なく、俺のことを焼き焦がす。 ガラガラの車内の、一番後ろの座... 2020.10.07 ホラー短編小説
ホラー 最高のミートソース 母は、料理上手な人だった。専業主婦として、持て余した時間を、すべて夕食の支度に使ってしまうような人だった。 だから私の家の食卓には、ほとんど毎日、誕生日とクリスマスがいっぺんにやってきたようなごちそうが並んでいた。 なんでもやってみたい年頃... 2020.05.10 ホラー短編小説
ホラー のしかかる時の十字架 男の怒鳴り声はいつも、秋生あきおの心を容赦なく殴りつけ、急速に冷やしていく。例え対象が自分ではなかったとしても、敏感すぎるきらいのある秋生は、自分のこととして受け止めてしまう。 横目で見ると、皿を割ってしまった新人の女子大生が、店長から厳... 2020.03.23 ホラー短編小説