気弱なオメガの最初で最後、最高の選択(14)

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(13)

「駒岡さーん」

 スマートフォンで「もうすぐ帰るよ」とメッセージを打ち込んでいた雪人は、一度目の呼び出しをスルーしてしまった。

「駒岡雪人さーん」

 フルネームで呼ばれ、ハッとして立ち上がる。

「あ、はい! います!」

 苗字が変わったばかりで、いまだ慣れない。会社では旧姓で通しているし、呼ばれる機会もほとんどなかった。

 今日は早退して、妊夫検診に来ている。

 つがいとなった一夜の行為で、雪人はばっちり妊娠していた。士狼は「俺がもっとしっかりすべきだった」と反省したが、雪人が嬉しそうにしているのを見て、微笑んだ。

 もとより彼も、子どもが欲しくなかったわけじゃない。ただ、つがいとして結ばれたその日に妊娠してしまうと、ふたりきりの生活がほとんどなくなってしまうのを、少し残念に思っていただけだった。

 それから籍を入れ、引っ越しをして、今に至る。

 オメガ男性を診てくれる病院は少なく、つばさに紹介してもらった。現在彼は、出産を無事に終えて、海外から帰ってきたつがいの男性とともに、健やかに暮らしている。

 つばさが生んだ女の子は、本当に可愛くて、妊娠中の彼を過保護に世話していた士狼はもちろん、雪人もメロメロだ。姪にすらこうなのだから、この腹の子が産まれたら、いったい自分たちはどうなってしまうのか。

 想像がつくような、逆につかないような。

 そんなことを思いながら、病院を出る。空気はすっかり春めいて、桜のつぼみも膨らみかけている。

「雪人!」

「え、士狼さん?」

 まだ日が高い時間、明らかに就業時間内である。

「早退してきたんですか?」

「もちろん」

 もちろん、じゃないですよ。

 呆れつつも、それでもやっぱり嬉しいものだ。

 全身全霊で愛を注いでくれるこの男と一緒に、親になる。

 雪人はひとつ、決めていることがあった。

 この子がどんな性別であっても、自分自身で選んだ夢や、愛した人との関係を、全力で応援するのだ、と。

 自分の感情が動くままに選んだことこそが、運命なのだから、と。

「パパですよ~」

 撫でる手つきは優しくて、雪人は微笑んだ。

「今動かなかったか!?」

「もうすでにパパっ子なんですね」

 ゆっくりと彼に手を引かれて、連れだって歩く。

 どうか、この幸福が永遠に続くように。

 雪人はそっと祈りをこめて、うなじの消えない傷に触れた。

(了)

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