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<14話
哲宏と風子を交流させるという思いつきは、計画の時点で頓挫した。
何せ、通っている学校が違う。電車通学ならば、偶然を装って出くわすこともできるが、哲宏は自転車で近道をして通っている。
何もできないまま、終業式の日になった。
通知表はまぁ及第点といったところ。まだ高校一年生だし、進路も何も考えていない。中学のときと比べてもそんなに変わらないので、軽くチェックだけして、すぐに鞄にしまった。
茅島さんが視界の端で、通知表を握りしめながらこちらを向いて、わなわなと震えているような気がしたが、付き合っていられない。
彼女の通知表が、どのような結果になっていたのか、興味はゼロだ。
夏休みの過ごし方についての諸注意は、七月に入ってから毎日のように言い聞かされていたことの繰り返しだった。ホームルームを終えて解散が伝えられる。
「明日から夏休みかあ~」
隣の席の子が、伸びをしながら言った。立ち上がる気配もなく、帰る気がないのだろうか。
「ねえ。守谷さんは夏休みの予定は?」
話しかけられて驚いた。思わず「私?」と、自分のことを指さしてしまったほどだ。もしかして「夏休みか~」も、独り言じゃなくて、私との会話のきっかけだったのか。
「いや。別に何も。部活と宿題と、くらいかな」
「え? じゃあ暇? せっかく隣の席になったから、本当は守谷さんと仲良くしたかったんだよね、あたし」
にぱー、っという擬音が聞こえそうな笑顔。脳天気そうで、風子と少しだけかぶった。
「今日も部活?」
「ううん。今日は休み、だけど……」
「じゃあウチらとカラオケいこうよ!」
すでに何人かで、一学期お疲れ様会をする予定でいたらしい。私のこともずっと誘おうとしていたのだが、気づいたら教室におらず、声をかけられなかったとのこと。
「ごめんなさい。今日は」
午前中で学校が終わる日こそ、風子を気にかけてやらなきゃならない。
基本的に、どこの学校も今日が終業式だ。例の工業高校も同じ。電車の中で遭遇したときに、風子をあの男から守らなければならない。カラオケなんて行っている暇はないのだ。
断られた堤(つつみ)さんは、すっと真顔になった。そうすると、やっぱり風子とは似ても似つかない。何も考えていないように見えて、本当に何も考えていないのは、風子くらいのものだ。
「また普通クラスの子のところ? ほんと大変だよね。あたし、言ってあげよっか? 迷惑かけるなーって」
この手の反応をする子は、今までも何人かいた。当人同士の気持ちや事情をまるっと無視して、勝手に憤ってくれる。正義感が強い、というのともちょっと違う気がする。
「や。私の好きでやってることだから」
「でも」
私がやんわりと押しとどめても、堤さんは不満そうにしている。このまま風子の教室に殴り込みをかけそうな勢いをどうにか制止して、私は風子の家の事情や彼女の性格を、かいつまんで話した。
「ね? 風子のことが心配なの」
風子を可哀想な子だと認識して、支える私が必要なのだと理解してくれたらいいんだけど。
けれど、堤さんは真顔のままだった。
>16話
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