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「天木風子! 四つ葉のクローバーを見つけるのが得意です!」
一学年二クラスしかない小学校だった。一度も同じクラスになったことがない同級生であっても、顔見知りだし、昼休みには、クラスの垣根を越えて遊んでいた。
新学年とはいっても新鮮味に欠ける。しかし、小学校四年の四月は違った。
転校生が、うちのクラスにやってきたのである。
級友たちのテンションは爆上がりだった。女子か男子かでひとしきり盛り上がり、どちらであっても仲良くやっていこうという結論になった。
転校生の話は隣のクラスにも伝わっていて、「どうして俺、二組じゃないんだろう」と、真剣な顔で友達に言いに来た男子もいたほどだった。
担任の先生に連れられてやってきたのは、背が低くて、少しだけぽっちゃりした女の子だった。一部の男子が、すん、とおとなしくなった。
転校生が美少女、美少年なんていうのは、アニメの中だけの話だってこと、知らなかったのか。
それに、がっかりするほど風子はブスじゃない。目はぱっちりと大きくて、二重だ。可愛い可愛くないって、だいたい目元で決まるものだ。
そうじゃなきゃ、ぼってりと重い一重まぶたのクラスメイト・新井さんは、大人になったら絶対、二重に整形するんだ! と息巻いたりしない。
かくいう私も、あんなきれいな二重まぶたはしていない。かろうじて、一重ではないといえる、うっすらと入ったラインを主張する程度のものなので、風子の目だけはうらやましいと思った。
風子が自らの特技を発表すると、クラスの女子の半分は、興味を失った。低学年のときとは違うのだ。大人ぶりたい女子にとっては、「四つ葉のクローバー? だからなに?」なのだ。
前に座っていた間宮さんがこちらを振り返って、「ちょっと変わった子みたいだね」と、耳打ちしていった。
私は小さくうなずくにとどまった。YESと応えるのもNOと応えるのも、私に何の得もない。女子同士の会話は、ちょっと濁しておくくらいがちょうどいい。
間宮さんが前を向くと、今度は背中をちょんちょん、と押された。後ろの席は確か、山口さん。
「天木さんと、仲良くやっていこうね!」
彼女は初対面の転校生と、どうやったら仲良くできるのか探るべく、風子をじろじろと観察している。私にわざわざ声をかけてきたのは、今年もたぶん、女子のクラス委員は私になるだろうという推測からだ。
転校生の世話係は、隣の席になった子。それから同性のクラス委員。風子がものすごく人の目を惹くタイプだったら、他にもお近づきになりたがる子がたくさんいただろうけれど、たぶん私にお鉢が回ってくる。
「クラスのことや学校のことは~……守谷(もりたに)。いろいろ見てやってくれ」
初老の男性教師は、私とばっちり目を合わせて言った。
ほらね。
山口さんが再び、つんつくつん、と指で背中をタップする。それを振り払うように立ち上がり、「はい。わかりました」と言って、私は風子を見た。
彼女は心底嬉しそうに、何も考えていないように笑っていた。
ちょっと変な子だという、間宮さんの評が正しい気がしたし、実際付き合うと、やっぱり変な子だった。
>3話
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