業火を刻めよ(8)

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火 ライト文芸

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7話

 翌日、早朝。

 最低限の身の回りの物だけ詰め込んだリュックと、携帯端末を前にして、ヒカルは黙っていた。

 携帯、といっても発信専用のようなものであり、電話着信はおろか、メッセージの着信すら、宣伝の類しか来ない。前回、長いコール音に呼び出されたのはいつだったのか、ヒカルは思い出せない。

 親に一言。

 一週間前に、自分でも戸惑いながら電話をしたばかりだ。こんな短期間に、いったい何を話せばいいのか。

 命令だ、とエリーは言うけれども。

(……聞く必要は、ないな)

 任務中、研修中にあれをしろこれはするなと命じられるのは、当たり前だと受け入れている。バディという対等な関係でありつつも、エリーは先輩だ。

 安全に、そして確実に任務を遂行するために、彼の言い分には道理が通っている。

 けれど、親に連絡をするかしないか、というのはヒカルのプライベートだ。彼に命令される筋合いはない。

 やっぱりやめよう。電話をした方が、気になって仕事に集中できない気がする。

 ヒカルは時計を確認して、「やべっ」と短く叫んだ。

 もう行かなければならない。リュックを掴んで、慌ただしく部屋を出る。

 外に出て、ヒカルはアパートを見上げた。

 次に帰ってくるのは、約一か月後。その頃には、本格的な冬がやってくる。

「いってきます」

 待っている誰かがいるわけでもないのに、ヒカルは口の中で呟いていた。

9話

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