青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ(11)

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 ルルがホムラの正体について明かしたその瞬間から、向けられる視線は厳しいものになった。

 まさかそんなはずがない。でも、二番目の水の精霊の髪の毛は淡い青色で、最初の精霊とは全然違う。それに顔立ちも。光り輝く美しさは、彼女が力ある精霊であることを示している。

 疑いは、いつしか確信に変わる。ピアナがルルを連れ回しているせいだ。行く先々で、彼女は人々の願いに応じて、水の術を行使している。

 ホムラは一度も使わなかった。使えなかった。

 無条件にホムラの味方をしてくれるのは、レイニの他は、いつも遊びに来ていた子どもたちだけだ。

「みずのせいれいさまじゃなくても、せいれいさまはせいれいさまだよ」

 大人たちがホムラに向ける厳しい目、口をついて出る陰口を、子どもは純な瞳で否定する。親から遊びに来ることを止められているはずなのに、彼らは勝手に庵に来ては、引きこもっているホムラと話をしていく。

「ラジがおかあさんで、サイがおとうさん。あたしはおねえさんね! それで、せいれいさまはあかちゃん!」

 無理矢理な配役でのままごとで、赤ん坊役を押しつけられたホムラは、シャビィが「ね、あかちゃん!」と言う度に、不明瞭な言葉をむにゃむにゃ呟き笑うだけだったが、彼女はおおむね満足していた。

 むしろ、父と母を演じるように命じられた男児ふたりに不満らしく、何度も駄目出しをしている。

「ままごとあきた」

「おれもー」

 投げ出した彼らの腹が、ぐうと鳴る。朝からやってきて、もう昼だ。

 いつもなら、レイニか彼の命を受けた従者が迎えに来て、三人を村へと送り届ける。

 しかし、今日は待てど暮らせど来なかった。

「せいれいさま、おなかすいたよ」

「そう言われても……」

 気休めに果物を食べさせても、育ち盛りの子どもたちの腹を満たすには足りない。家に帰らせて、ちゃんとした食事を食べさせなくてはならないが、迎えは来ない。

「ねぇ、せいれいさまあ」

 強く手を引かれて、ホムラは諦めた。

「わかったわかった。今日はおれが、お前たちを家まで送ろう」

「ほんと? やったあ」

 久しぶりにホムラと出かけられることを、彼らは本心から喜んでくれた。限りなく小さな、決して強くはない味方であるけれど、ホムラは勇気づけられる。

 子どもたちだけで帰すわけにはいかないから、ただそれだけだ。大丈夫。ちょっと行って無事に親に引き渡したら、すぐに帰ってくる……。

 右手はシャビィと繋ぎ、左手はラジと。サイは木の棒を拾ってご機嫌に、先頭を歩く。

「あんまり速く行き過ぎるなよ」

「わかってるよー」

 村までの短い道のりを、シャビィは一生懸命にお喋りしてくれるし、ラジも「おなかすいたよ」と言いつつ、速度を落とさずに歩いた。

 村の入り口についたとき、最初にホムラたちを見つけたのは、井戸端会議をしている女たちだった。その中には、ラジの母親もいて、血相を変えて「ラジ! 来なさい! あんたって子は!」と、ホムラから息子を引き剥がした。

 まるで、化け物から子どもを守るようだった。母親はラジの頭から覆い被さるようにして、彼を抱き締めた。

 ホムラは何も言えず、ただ会釈をして足早にそこを立ち去る。サイの家も似たようなもので、送り届けたホムラに礼のひとつも言わずに、すぐに扉を閉じてしまった。

 最後のシャビィの家は、ふたりよりはマシだった。娘を家に入れた母親は、黙って頭を下げた。それだけでも救われたような気がして、ホムラも何も言わず、一礼し、家を出た。

 すぐに庵に帰ろうとした。だが、シャビィの家から村を出るためには、最も栄えている通りに出なければならない。

 遠巻きにしている人の群れの中、ホムラは俯いて歩く。走ったら、今以上に目立ってしまうから、ギリギリの速足で移動する。

「おい、嘘つき!」

 駄目だ。足を止めるな。挑発に乗ってはいけない。

 相手は、シャビィたちよりも年かさの少年たちだった。それでも、十歳にもならない小さな子どもだ。いちいち反応してはいけない。

 そのまま一瞥もくれずに通り過ぎようとしたホムラを、しかし、少年たちは許さなかった。

「っ!?」

 投げつけられたのは、泥団子だ。いつもそうやって、誰かを狙って遊ぶ性悪なのか、彼らは慣れていた。動いているものに命中させるのは難しそうだが、彼らにとっては朝飯前らしく、レイニにもらった服は汚れた。

 思わず立ち止まったホムラは、歩いているときには無視できていた悪意の目に直接晒される。

 聖なる小百合のとき、裏切られたことを思い出す。

 しかし、たったひとりに踏みにじられたときとは違う。裏切ったのはむしろ、自分だ。

 止まっていれば当て放題だと、少年たちは泥団子をぶつけてくる。仲間たちがいつの間にか増えていて、右からも左からもホムラを狙う。最悪なことに、石が入っているものまであって、それが額に直撃したホムラは、痛みにうずくまった。

「ホムラ様っ!」

 血が流れ落ちる傷口を押さえていると、頭上から名前を呼ばれた。自分の名を知る人間は、ひとりしかいない。顔を上げ、あまりの眩しさに目を細める。銀の髪が、夏の陽を浴びて輝いている。

 ああ、なんて美しいんだろう……。

 レイニはホムラに駆け寄り、傷を観察した後、泥団子をぶつけてきた少年たちを叱った。族長の息子に激怒されれば、子どももさすがに萎縮する。少なくとも、親が出てきてぺこぺこと頭を下げるのが、これまでのナパールでの光景であった。

 だが、少年たちはレイニに対して敬意を払わなかった。鼻で笑い、彼にまで泥をかけようとする。

 ああ、これも自分のせいだ。

 最初から、火の精霊であることを明かし、さっさと人間界を退散していれば、避けられた事態なのだ。

 レイニは現在、窮地に立たされている。ホムラが火の精霊だと気づかなかったこと、ルルのように力の強い精霊を召喚できなかったことで、彼の御巫としての技量が疑われ、信頼が揺らいでいる。

 レイニの代わりに、勢いを増しているのはピアナである。自分たちがどこに所属する人間なのかも忘れ、ピアナのことを姫様姫様と慕い、何か困ったことがあれば、彼女に相談する。

「あら。あまりにも汚いから、浮浪者かと思いましたわ、精霊様。ごきげんよう」

 ルルを引き連れ、やってきた女の方に、悪ガキどもは走り寄った。ホムラたちに悪戯をした名残の泥だらけの手を、ピアナは自然と振り払い、「あら、元気ね」と、笑顔を浮かべた。

「ピアナ姫様!」

 注目を浴びている横で、ルルは無表情だった。なまじ、顔が整っているものだから、感情を無にしていると、恐ろしいものがある。

 彼女の胸元には、大きな黒い石のネックレスが、鈍い光をたたえている。不審に思って声をかけようとしたけれど、レイニによって遮られた。

 人々の関心がピアナにあるうちに、庵へ帰れと言うのだ。怪我人を放っておくことができないレイニも、ついてきてくれる。

 村を出るときに、ホムラは振り返った。誰もこちらを見ていない。ルルとピアナを取り囲み、ちやほやと敬っている。

 あそこにいるべきは、レイニなのに。

「ホムラ様。さあ」

 自分以外の精霊を召喚していたら、レイニはこんな風に落ちぶれることもなかった。

 どこまでも優しく自分だけを見てくれるレイニを思って、ホムラは決めた。

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