青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ(6)

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(5)

 しばらくの間、ホムラを抱擁していたレイニだったが、やがてゆるゆると身体を離した。

「さあ、汚れを落とさなければ」

 努めて明るく言い放つレイニに引かれ、ホムラは庵の中へと向かう。そのまま浴室に連れ込まれた。何か予期するものがあったのだろう、レイニが用意してくれていた。

「ひとりで入れますか?」

 精霊界では、湯浴みをする習慣がない。汚れたり臭ったりすることがないから、せいぜい気が向いたときに水浴びをするくらいだった。

 だが、人間界に顕現した精霊は、汚れることもあるし、汗もかく。温かな湯に、日替わりで垂らされる香油が香ってくるのが新鮮で、ホムラの気に入りの習慣になっていた。

 ホムラは首を横に振った。

 もう何もする気力がなかったし、また、レイニの忠誠を試したいという意地の悪い気持ちにもなっていた。彼だけは裏切らないと信じていいのか、まだ揺れている。

 レイニは逡巡した。だがすぐに、「かしこまりました」と承諾し、ホムラの身体から衣服を脱がせていく。

 下着も取り払ったとき、彼は息を呑んだ。ホムラの股間に目が釘付けになっている。

「ああ……精霊は人間とは違うから」

 精霊に性別はない。便宜上、人間の男に近い者と女に近い者に分かれているが、生殖をするわけではないから、性器にあたるものはない。

 人間の男には、子種を作る袋と、それを吐き出す肉棒があるんだっけな。

 蓄えた知識を反芻する。しかしそういえば、実際に見たことはなかった。ホムラはレイニの股間あたりをじっと見る。

「ホムラ様。お身体が冷えますから、もう入りましょう」

 ごく自然な調子で促すレイニ自身は、脱衣する気はないようだ。

 それが猛烈に悔しい気がして、ホムラは語気をやや強めて命令した。

「レイニ。お前も服が濡れるだろ。脱げ」

「それは」

「ここの湯船は広いから、おれとお前で一緒に入れるだろ?」

 一方的に洗われるのは嫌だ、一緒に入浴しなきゃ許さない。

 ホムラが入浴を拒否する姿勢を見せると、レイニは渋々自分の着ているものを脱ぎ捨てた。

「それでいい」

 微笑むホムラの眼前に、レイニの股間が堂々と晒された。髪と同じ色をした陰毛、その中央に座する陰茎は、ホムラの指何本分に相当するのか。

 確かめてみたいと思ったけれど、レイニは素早くホムラを抱え上げ、浴室へと連れ込んだ。椅子に座らされ、「ひどく汚れていらっしゃいますから、まずは洗いましょう」と、湯をかけられた。

「っ」

「痛みますか?」

 声を詰めたホムラを気遣う声に、首をゆるゆる横に振る。耐えられない刺激ではない。

 大きな手のひらに石けんを泡立てて、レイニはホムラの細い腕から洗い始める。背中を洗われているときなど、気持ちよくてうっとりと溜息が出た。

「前はご自身で洗われますか?」

「いや……洗ってほしい」

 ぐっ、とレイニの喉が鳴った気がした。

「レイニ?」

「いえ……かしこまりました」

 レイニはホムラの前に回った。そして胸、腹、脚……そしてつるりとした股間に、彼は泡を撫でつける。時折石けんが傷に染みて、小さく喘ぐ度、彼の手が止まる。

「レイニ、おれは大丈夫だから」

 痛みは一瞬で和らぎ、たいしたことはない。レイニは心配性で、何度も手が止まるし、目はうっすらと濡れている。

 泣くほどか? と、レイニの献身ぶりに驚くホムラの身体は、すっかりきれいに洗われ、泡を流した後には、湯船に浸かった。

 レイニは使用した桶などを片付けていて、ホムラに背を向けている。広い湯船の縁に掴まり、頬杖をついて広い背中を眺める。

 褐色の肌が水に濡れている。抱き留められたり支えられたり、腕や胸の筋肉が立派なのは知っていたが、背にもきれいに筋肉が盛られていて、湯煙も相まって本当に美しい。

「きれい……」

 見惚れていたホムラは、思わず口にしていた。振り向くレイニに、「一緒に入ろう。あったまった方がいいだろ」と誘いをかけた。

 一度は首を横に振ったレイニをしつこく説得すると、彼は溜息をつき、ホムラが空けた場所に入ってくる。

「へへ」

 レイニの胸にもたれかかり、投げ出された彼の腕を揉みながら、ホムラは笑った。

「楽しそうですね……」

 そう言うレイニの方は、あまり楽しくなさそうだった。風呂で機嫌がよくなることはあっても、逆はないと思っていたから、驚いた。

「レイニは、違うの?」

「私は……」

 奥歯を噛みしめる表情とは裏腹に、

「私も、楽しいですよ……」

 と、振り絞られた声に、ホムラは首を傾げた。

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