高嶺のガワオタ(10)

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ライト文芸

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9話

 スマートフォンの中に、新しい連絡先が増えるのは、久しぶりのことだった。

 ソファの上で電話帳を眺めていると、自然と唇が緩んできてしまう。

「お兄ちゃん、キモイよ」

「失礼な」

 言いながら顔を上げると、水魚が冗談ではなく、心底呆れたという表情を浮かべている。そこまでだらしのない顔をしていた自覚がなかった飛天は、おのれの頬を摩り、きりっとした顔を作ってみせた。

「だからキモいって」

 妹とは、普通よりイケメンに生まれた兄に対しても、容赦がないものなのである。

 さて、妹とじゃれている場合ではなかった。

 飛天は電話帳からメール作成画面を開いた。トークアプリは、手軽さが利点だ。だがその分、メッセージの熟考とは相性が悪い。

 それに、誤操作で途中送信をしてしまった苦い記憶が何度もあるので、初めてのメッセージはキャリアメールにしようと決めていた。

 男に慣れるため、という名目で映理と付き合えるようになった。せっかくだから、二人で出かけたい。

 デートのお誘いである。

 幸いにして飛天はいつでも暇である。都合はいくらでも、映理に合わせることができる。

 問題は、行き先であった。

 飛天はメールを打つ手を止めた。

 映理は少女漫画のような恋愛に憧れている。そんな彼女の理想と、自分の事情を擦り合わせると、最適なデートの行き先は、こんな条件だ。

 その一。ベタでロマンチックな場所。

 その二。人目につかない。あるいは周囲が他人のことを見ることがない場所。

 飛天は脳内の検索システムをフル稼働させる。だが、悲しいことに、そもそも飛天も、デートの経験がほとんどなかった。情報量に乏しいので、すぐに「一致するものはありませんでした」の結果が出る。

 いや、一つあるか。

 行ったことはないけれど、いろんな趣の部屋があって、カップルばかりが集う場所。利用目的は一つだし、他の人間のことをまじまじと観察するのは、失礼に当たるような場所。

 そう、それはラブホテル……って、何言ってんだ、俺!

 飛天は自分の貧困な発想力を呪い、自らの頬を一発殴った。

 映理との関係は「お試し」で、彼女が男に慣れるまでの間だ。何をいきなり肉体関係を結ぼうとしている。馬鹿か。

 自分で自分を殴るという奇行を始めた兄のことを、妹は今度こそドン引きした表情で、今更ツッコミを入れることもせずに、遠巻きに見つめていた。

 仏の顔も三度までとは言うが、妹の愛の鞭は、二回止まりなのであった。

11話

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