高嶺のガワオタ(24)

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ライト文芸

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23話

 会場は満員御礼だった。ここにいる全員が、特撮オタクかと思うと飛天は緊張で身を強張らせたが、すべて杞憂だった。

 ここにいるのは純粋に特撮技術やアクションなどに魅了された人間たちばかりだ。生身の人間への興味は全体的に薄い。

 まして、会場にいるだけの一般人など、眼中にない。ただひたすら、十五分程度のショートムービーを見て、制作者たちの挨拶に耳を傾けている。

 ほっと肩の力を抜いた飛天を見て、映理も安心している。

「どうですか? ここまでの感想は」

「うーん……」

 飛天は口ごもる。正直なところ、イマイチだった。独りよがりというか、「こういう作品が撮れる俺たち、かっこいいだろ?」というのが透けて見えるというか。曲がりなりにもプロだったので、よかった点以上に欠点が目につく。

 ただ、場内のどこに関係者がいるのかわからない状況で、明け透けな感想を述べる勇気は飛天にはないし、恥も知っているつもりだった。

 映理は飛天の煮え切らない反応に、わかりますと頷いた。

「終わったら、どこかのお店でゆっくり話しましょう」

「できれば会場から離れた場所でね」

 それがいい、と彼女が唇に笑みを浮かべた瞬間、最後の作品の上映が始まった。

 腕組みをして、ふんぞり返って椅子に座っていた飛天は、高みの見物気分だった。

 最終作品の『怪獣・ゲスギス』だって、まったく期待していなかった。

 ところが、話が進むにつれて飛天は組んでいた腕をほどき、ほとんど前のめりになるほど夢中になっていた。

 少年の些細な陰口から生まれた小さな怪獣は、彼が成長するにつれて次第に肥大化していく。スマートフォンを持って、SNSを始めたところから一気に加速して、高層ビルと同じくらいの大きさになってしまった。

 技術は金をかけたプロの仕事と比べるのは可哀想だ。けれど、そのテーマ性のある作品は、大人のための特撮という気がした。何よりも、SNSでの叩き行為の風刺という点に、飛天は興味を覚えた。

 叩く側だった少年の個人情報が晒されて、叩かれる側に回ったラストシーン。暴れまわっていた怪獣が炎上し、萎んでいくのを見て、会場がざわめいた。

 飛天には一瞬、ピンと来なかったが、隣に座る映理は、両手で口を押さえ、視線はスクリーンに釘付けである。

 CG合成などではないし、ミニチュアサイズの人形を燃やしたわけではない。せっかくオリジナルで作った着ぐるみを、本当に燃やしたのだ。

 もう二度と、同じ怪獣で作品を作るつもりはないという心意気が感じられた。

「最後のは……すごかったな」

 上映も制作者挨拶が終わっても、飛天は脱力してしばらく座席から動けなかった。

「まさか本気で燃やすとは、思いませんでした!」

 と、映理も同意を示す。

 ロビーでは交流会が行われており、観客と制作者たちとの間で、活発な議論が交わされている。

 最後の作品を撮った人物に感想を伝えたいという映理を、飛天は止めずについていった。

 テロップには、脚本・演出・撮影と同じ人物が表示されていた。非常に才能のある人間だと感じたので、飛天も近くで見てみたいと思ったのだ。

 日本総合芸術大学・特撮技術研究部というのが『怪獣ゲスギス』を作った団体で、ラストの衝撃があまりにも大きかったせいか、彼らは多くの観客に囲まれていた。

「これは、近づくのも大変そうだな……」

 オタクはとにかく、語りたがる。今日上映された作品についてのみならず、テレビや映画の話題でも盛り上がっている。

 あとでメールで感想を送ればいいのでは? 飛天はちらっと思ったが、映理の考えは違うらしい。

 鑑賞直後の熱のある状態で、たった一言でもいいから「面白かった!」と伝えたい。彼女の光り輝く瞳がそう主張している。

 談笑する人々の輪を潜り抜け、二人は舞台挨拶で中心に立っていた青年の下に、ようやくたどり着いた。

 確か、中野なかの太陽たいようと紹介されていた。そこそこ整った容姿だが、長身に見合った筋肉がなく、非常にアンバランスで貧相だ。少し鍛えれば、本人が役者として出演するのもアリだ。飛天は思ったが、口に出さなかった。

 長い腕を大げさに動かして、来場者と語らっている彼に、映理はタイミングを見計らって、「あの」と声をかけた。

 太陽は顔を上げて、眼鏡の奥の目を細めた。つかつかとロボットのような硬い動きで映理に接近し、「ほうほう」と頷きながら彼女を観察する。

「あ、あの……?」

 困惑する映理に、彼女を守ろうと背に庇った飛天。二人の反応など気にも留めずに、太陽は「素晴らしい!」と叫ぶ。周囲の目が一斉に向けられて、飛天は動けなくなる。

 目の前に立つ飛天のことを無視して、太陽は背後の映理に話しかけた。

「君、次回作のヒロインになってくれないか!」

 と。

25話

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