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<27話
『絶対に、報われる日は来るから!』
芸能界は残酷な世界だ。入ろうとする者を弾き返し、なんとか厳しいオーディションを経て残ったとしても、人気がなければ生きていけない。そして去る者を追うこともしない。新人はいつだって入ってくるから。
飛天がアイドル事務所を辞めると言い出したときも、スタッフは誰一人止めなかった。一年のうちに何人もの卵たちが、孵らずに消えていく。飛天もまた、彼らにとっては同じだ。
唯一引き留めてくれたのが、敦だった。
『五人でデビューできなかったのに、できるわけないだろ!』
当時、すでに二十代半ばの敦にとって、そんなことはわかり切っていたのに。まだ若い飛天よりも、敦の方がチャンスの扉は小さく狭い。すでに硬く閉ざされてしまったかもしれない。
それでも敦は、努力を怠らなかった。歌もダンスも、常に最高に仕上げようとした。新しく入ってきた少年たちの面倒を率先してみていた。
善行を積めば、自分に返ってくるものだ。
そんな、徳の高い坊主が言いそうなことを、柔和な笑みを浮かべて、本気で信じている様子だった。
そしてその言葉通り、彼の身に降りかかってきた幸運。もしも敦の制止に従って、今でもアイドルを続けていたら、自分もその恩恵にあずかることができたのだろうか。
――いや、ダメだな。
飛天はすぐに結論づけた。
自分のためにしか頑張ることができない飛天の前を、チャンスの神様は横切らない。ただうらやましく思うだけの自分が、大成することはない。
映理の演技指導だって、結局は自分の自尊心を守るためだけに行っていたのだ。本当にいい作品を作り上げるためになんて、考えていなかった。
ヒロインは主人公とイコールではない。映理のその言葉の真意は、わからない。ただ、彼女は太陽が作りたい物を理解して、彼の意志に合わせようとしていた。
すべては自分が関わる作品を、よりよい物にしたいから。
思い返せば、アイドル時代もそれ以降の役者をしていた時期も、自分は本当に、作品全体に寄与するようなことをしていただろうか。
どうにか目立つ演技をして、デビューの糸口を掴みたかった。舞台上で印象を残して、いつかは大きなステージで主演を掴みたい。
そんな意識でばかりいた気がする。だから、誰も助けてくれなかったのだ。共演者も、関係のあった制作陣も、誰も飛天を庇ってはくれなかった。
映理との関係も、もう終わりだろう。飛天は諦めていた。彼女と会うことがないのなら、このバイトもおしまい。元のニート生活に戻るだけだ。
>29話
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