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<14話
クレマンが口を塞いだのは、見覚えがあり過ぎるからだった。首のない死体は、何ら珍しいものではない。処刑という場面においては。ただ、若い娘の部屋と、首なし死体は、そう、ちぐはぐで気持ちが悪いのだ。女の死刑囚がいないというわけではない。死後ではあるが、首を斬ったことだってある。男のものよりも細くて斬りやすいと思われがちだが、実際やってみると、長い髪が絡みついてしまう。クレマンは、髪を先に切ることを覚えた。
イヴォンヌの死体は、首から下は日常を送っているままの姿だ。クレマンはよろよろと近づいて、彼女の首を探す。簡単に見つかった。ベッドの横にごろりと落ちていた。無造作に、切り落としたそのままに下を向いた状態で、放置されている。クレマンは手袋をはめ、彼女の首を恐る恐る拾った。
白い顔に、閉ざされた目。このままあるべき場所に戻したら、再び起き上がりそうなほど、ただ眠っているかのように美しい死に顔。
首は持ち去られるわけでもなく、これ見よがしに台座の花瓶と入れ替えられているわけでもない。ただ、切断することだけが目的なのだ。
「これってやっぱり……」
「ああ……十中八九、首斬り鬼の仕業だろう」
ここ数年、王都を賑わしている連続殺人鬼の通称は、高等法院が情報提供を求めるときにつけた名前ではない。住民たちの噂話が広まった結果、捜査をする役人も使うようになったのだった。
その男は(あるいは男たちは)、被害者の首を切断する。最初のうちは失敗することもあり、首の皮一枚繋がった状態の遺体が発見されることもままあったが、最近の犯行では慣れたのか、きちんと刈り取られている。
イヴォンヌの首も、切断面こそ荒々しいものの、最後まで切り落とされていた。肉も骨も一発で断ち切るとなると、力だけではなく、技術も必要だ。クレマンは、首斬り鬼の犯行と思しき死体を見るのは初めてだったが、自分が切り落とした首については、嫌というほど見てきた。よく観察すれば、犯人はのこぎりのように剣を引いては押しを繰り返していることがわかる。
クレマンは一度首を置き、身体の方に向き直る。遺体ではあるが、妙齢の女性。そして婚約者のいる身である。オズヴァルトに一応断りを入れてから、ネグリジェの前を開いた。腹にも胸にも、刺し傷はない。口の中にも爛れなどの毒物の痕跡はなかった。医者として、クレマンは毒も薬も扱うから、判断が早い。
他の外傷もなく、毒でもない。クレマンはあまりの惨さに、目を閉じた。
>16話
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