断頭台の友よ(18)

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十字架 ライト文芸

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17話

 捜査権を委任してもらうことは、覚悟していたよりも簡単であった。思わず拍子抜けした。

 首斬り鬼の犠牲者が出続けていることについて、上層部からも聞き込み先の住民からも非難され、辟易していたのだろう。気に入らない上司に下手に出ながら打診すると、構わんという答えが返ってきた。もっとも、手柄はクレマンではなく、かの上司のものになるし、失敗はクレマンのせいということになる。それは覚悟の上であったので、一も二もなく頷いた。翻される前に、書面にしたためてもらい、クレマンは捜査資料の束とともに持ち帰った。

 部外者禁の印がついていることに後ろめたさを感じながらも、クレマンは二人の秘密捜査本部として使わせてもらうことになった、マイユ家の一室で、資料を眺める。治療院の方は、村の人たちに説明をして、週に二回だけ開けることにした。持病の治療に通っている人々については、薬をできる限り調合しておいたので、ブリジットが対応してくれる。もう一つの仕事の方は、待ってはくれないので、両立するしかない。

「体があと二つ欲しいな……」

 ぼやくクレマンに、オズヴァルトは尋常ではない速度で目を動かしながら、「捜査と医者と……あと一つはなんだい?」と、なかなかに鋭いことを言ってくる。動揺を押し隠して、「休憩用だよ!」と、クレマンは冗談を飛ばした。そりゃあそうか、と彼は肩を竦めた。

 ひたすら無言で資料を読み込んでいく。大事なことは、捜査中に常に持ち歩く紙束にメモを取るクレマンに対して、オズヴァルトは書き取りは一切しなかった。頭にすべて入るのだろう。姿かたちのみならず、実務能力面においても、クレマンは彼には勝てない。悔しいとは不思議と感じない。自分に自信の持てない、劣等感の塊であるクレマンだが、オズヴァルトは心地よく負けさせてくれる相手なので、舌打ちのひとつも出てこないのである。

 書類調査の供は、長時間煮出した苦い茶だった。飲んだ後、すぐにはちみつをひとさじ舐めなければ、ずっと舌が痺れたままになる。一口飲んだ後、渋面をつくったまま、「毒じゃないのか?」と恐る恐る尋ねてきたオズヴァルトだが、頭がスッキリするという効果を体感すると、一杯は我慢して飲んだ。

 啜ってすぐにはちみつを舐めたオズヴァルトは、「書類を読んでわかったことがあるんだが」と切り出した。まだ自分の分を読み終えていないクレマンは、相棒の読書速度に舌を巻きつつ、負けていられないと一度視線を彼に向けたあと、再び紙に落とした。

19話

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