断頭台の友よ(2)

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「しかし俺みたいなケチな新聞屋の首を刎ねるなんてね、やっぱり首斬王は狂っておられやがる。街じゃあ噂んなってるぜ。旦那も聞いたことあるだろう? ここんとこ続いてる、首斬り殺人。ありゃあ悪魔に憑りつかれた王が、夜な夜な街に下りてきてやってるんだってよ」

 それまで男の話を無視していたクレマンの肩がぴくりと揺れた。噂は無論、クレマンの耳にも届いていた。しかし、誰の口を経てきたかによって、犯人の正体は異なるのだろう。高等法院の同僚たちから無邪気に語られたのは、あの不気味なムッシュウ・ド・パラーゾ――王都の処刑を一手に担う処刑人を、人は畏怖を込めてこう呼ぶ――こそが、おぞましい事件の犯人に違いないという憶測であった。

 五年前から不規則的にパラーゾの街で起きる、殺人事件。被害者は比較的裕福な家の者が多い。老いも若きも、男も女も関係なく、手口だけはいつも同じ。

 殺害現場は、まるでそこが断頭台であったかのように、鮮血で染まる。布にも壁にも床にも飛び散って、死体が発見されたときにはすでに乾ききって、拭き取ることができない。濃い死臭はクレマンのよく知るところで、近づいた死体は皆、首をすっぱりと切断されているのである。

 表の仕事の同僚たちは、口さがなく噂を撒き散らす。

 あの黒衣の首切り役人が、処刑だけじゃ物足りなくなって、罪なき人々の首まで刈り取っているのに違いない。

 いやいや、さすがにそれはないだろう。だが、犯罪人に一番近いところにいるのはあの旦那だからな。何かに感化された可能性はあるかもしれない……。

 クレマンは、一人で喋る男をじっと見つめた。彼は新聞屋だ。もしも他の噂話を知っているのならば、捜査に進展があるかもしれない。

 しかし、男は不気味な仮面を薄気味悪く思い、口を噤んでしまった。それからお互いに一言も発することなく、処刑台が設置された広場に辿り着く。

 馬車の通り道は、塞がれてはいない。これが、庶民に人気のある物語持ちの人間……例えば仇敵を討った孝行息子であったり、同情を禁じえない理由のある人間であったときには、人の波が馬車を襲う。クレマンは幸いなことに、囚人を連行されるという失態を犯したことはないが、何代か前の当主には、恥をさらしたうえ、押し合いへし合いに巻き込まれ、大きな怪我をした者もいる。

 もしもこの男が、国王批判の中心人物であり、人々に英雄視されていたとしたら危険だったが、残念ながら、誰も助けは来なかった。所詮、新聞屋は新聞屋。革命家になるには力不足である。助けが来るとでも思っていたのか、今更ながら怖気づいた男の顔は、心なしか青い。

 クレマンは無言で彼の腰に縄をかけ、しっかりと握った。それから足枷を外し、馬車から下ろす。なかなか動こうとしない男の尻を蹴りあげて、処刑台への階段を上らせる。おずおずと男は何度も振り返り、情けない表情を作る。眉根の下がったその顔は、ここに来る前に、控え室の鏡で見た自分の表情とそっくりであったが、クレマンが彼に慈悲をかけることは、ない。

 できることならば、死刑など執り行いたくはない。しかし、国王による命令を突っぱねたとき、次に飛ぶのは自分の首。いいや、残虐な王の考えることだ。何もしていない妻から先に、クレマンの目の前で殺すかもしれない。

3話

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