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<22話
クレマンが同僚たちのところを回って情報を得ていったのと並行して、オズヴァルトはあちこちの社交の場を訪れて、被害者たちの評判について聞き回っていた。もちろん、直接「亡くなったなんとか氏のことを教えてください」と聞くわけではない。クレマンのような口下手と、彼は違う。聞き込み相手の懐にひょいと入り込んで、そういえば……と、相手から話してくれるという大変稀有な才能の持ち主だ。
以前、あまりにも巧みなものだから、「僕よりも君の方が、捜査官に向いているようだ」とやっかみ半分に告げたことがある。するとオズヴァルトは笑い、
「いいや。君のように誠実に事件と向き合う捜査官には敵わないさ。それに、医学の知識がある君ほど適任な人間もいないだろう」
と、褒めそやした。まったく、この男は謙遜が過ぎる。だが、気持ちよく自尊心が満たされたクレマンは、「もしも商売がうまくいかなくなったら、僕の助手として雇ってあげよう」と、珍しく冗談を飛ばしたのだった。まさか、現実のものになるとは思っていなかったが。
十日ぶりに顔を合わせたオズヴァルトは、少しやつれていた。イヴォンヌを亡くした直後の悲嘆にくれる姿は鳴りを潜めているが、逆に目が爛々とし、頬はつやがないままに紅潮しているものだから、いっそ痛々しい。彼はこの後も夜会に向かうとのことで、ドレスアップした姿だ。招待されていない場や、これまでは「煙が苦手で」と避けていた男たちの社交場……喫煙所にも顔を出しているとのことで、忙しない。
「ちょっとは落ち着いて、茶でも飲みながら話そう」
クレマンが手ずから淹れたのは、バロー夫人の心を落ち着けるために使っている茶である。すっきりと爽やかな芳香のハーブを調合しており、眠り薬にも使用する葉をほんの少し入れてあるから、寝つきが悪くなることもない。
オズヴァルトは、そんな暇などないと閉口したが、そこはクレマンが、自分は医者であるということを全面に押し出して、強制した。渋々腰を下ろしたオズヴァルトは、熱湯を注ぎ抽出したばかりの茶に口をつける。
「あっ、ち!」
「当たり前だ。淹れ立てなんだから」
クレマンが呆れかえった声を出すと、口の中の火傷の痛みに熱くなりすぎた心が冷静になったのか、夜会の時間まではゆっくりと報告と休憩を兼ねることにしたらしく、シャツのボタンを外し緩めた。
オズヴァルトの後となると、どうしても彼と比較してしまい、肝心なことを言い忘れてしまいそうだったので、クレマンは先に、遺体の所見を集めた結論を述べた。
>24話
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