断頭台の友よ(3)

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十字架 ライト文芸

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2話

 広場に作られた処刑台は、誰もが見やすいように吹きさらしになっている。風が強く吹く。あおられて落ちないように、気を張らなければならない。息を吸うと、また猫背になっていたことに気づき、クレマンは慌てて背伸びをして、しゃんとした。

 ぐるりと辺りを見渡すと、今日の見物人はいつもよりも少なかった。やはりこの男は小物である。誰もがその末路を見たいと願う極悪人でもなければ、命を救いたいと願う英雄でもない。美丈夫であれば、噂を耳ざとく聞きつけた貴婦人たちが、近くの店の二階のベランダ席を借り切り、妙な熱狂をもって双眼鏡を覗いているものだが、男は何の変哲もない平民であった。小汚い男が死ぬ場面を見るくらいならば、普通に観劇に行く方が、よほど楽しいのは当たり前である。

 娯楽のない庶民たちにとって、公開処刑は一種の遊戯だ。国のお偉方は、犯罪の抑止力になると考えて、刑罰を広場で行う決定をしているのだが、実際に処刑台に立つクレマンからすれば、効果のほどは疑わしい。今も、数こそ少ないが、公開処刑の開始を聞きつけて、好奇心を宿した人々が集まってくる。

 人が死ぬところが見たい。できれば、血がたくさん出るやり方で。その方が恐ろしく、面白いからだ。

 彼らは自分自身がそうした刑罰を受ける立場になるという想像力に欠けていた。貴族であろうが、平民であろうが、実際にそのときになってみないと、気持ちはわからないだろう。クレマンにも、わからない。

 少し遅れて、神父が処刑台に上がる。最後の告解と死後の祈りを許されるのは、死刑囚の最低限の権利であった。男は神父の前に跪き、おいおいと泣き始めた。そうだ。死刑囚のほとんどは、こうやって泣き喚くのだ。

 冷めた目でその様子を観察していると、ふと視線を感じた。広場を見下ろすと、十歳ほどの少年がこちらを睨みつけている。珍しいこともあるものだ。死刑執行人と目を合わせようなどと、奇特な。忌まわしいと、誰もが目を背けるというのに。

 クレマンは少年を見下ろしていた。やがて、神父の祈りが終わる。男を台座に乗せる。もうここまで来れば、彼の命は風前の灯火である。

「お前は」

 クレマンはそこで初めて、声を発する。拷問のときですら、クレマンは死なないように指示を出すにとどまり、実際の聞き取りは他の役人たちが行っている。どうせ死ぬだけの男だ。それに街暮らしの平民であれば、声を聞いたところでクレマン・サンソンのことを知らない。

 声を出すことができないものとばかり思っていたのだろう。男は驚愕に目を見開いて、仮面を見つめた。さっと腰を落とし、クレマンが彼にだけ聞こえる声で告げると、目の色は恐慌へと変貌する。馬車で口数の多い人間のほとんどが、怯懦な性格をしているということを、クレマンはこれまでの経験でわかっていた。

「斬首刑になると思っているようだが、平民は絞首刑が普通だ。しかし、国王陛下を批判し、捜査協力もしなかったお前には、車裂きの刑が執行される」

 淡々と事実を述べるクレマンは、余計な感情を殺した。

 恐怖に喘ぎ暴れる男を、口のきけない助手たちが取り押さえる。クレマンは手にした鉄の棒を思い切り振りかざし、男の手足を潰した。

「ぐぎゃあ!」

 痛みに気絶した男が発した悲鳴は、驚き飛び去ったカラスの鳴き声とよく似ていた。

4話

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