断頭台の友よ(30)

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十字架 ライト文芸

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29話

 イヴォンヌの事件からひと月以上が経過しており、バロー商会も通常営業に戻りつつある、らしい。推測でしか話すことができないのは、オズヴァルトも社交界での聞き込み捜査が忙しく、バロー邸を訪れることがまれになっており、いわんやクレマンなど、もともとは何の関係もないのだから、流れてくる噂話に頼るしかない。捜査が進展していないことも、クレマンの足を鈍らせる要因であった。

「お忙しいところ、申し訳ございません」

 丁寧に礼をしながら、応接室へと通される。ゴーチエは、ただでさえ強面の顔に不機嫌そうな表情を浮かべ、話しかけづらい雰囲気を醸し出していた。妻の方も、つんとした顔でクレマンを睨んでいる。本題に入る前に、捜査の遅れを謝罪すべきかと口を開いたクレマンだったが、ゴーチエに「くだらん前置きはよろしい」と両断されてしまう。小さく肩を竦める。イヴォンヌの両親に尋ねるには刺激的な質問であるため、少しでも引き延ばそうとした自分が愚かであった。

 クレマンは懐から、オズヴァルトの描いた遺体スケッチを取り出した。折りたたんでいた皺をできる限り伸ばし、ゴーチエに見せる。当然のことながら、彼は眉根を寄せ、視線を逸らした。娘の骸など、何度も進んで見たいものではない。

 だが、見てもらわなければならなかった。ゴーチエよりも、クレマンと話す必要など一切ないと澄ました顔をしているカペラに。

 クレマンは、腹のあたりを指した。

「単刀直入にお聞きします」

 もしも自分の推測が間違いだとしたら、彼らは激怒するだろう。二度と家に入れてもらえなくなる。捜査を進めるのが困難になる。それでもクレマンは、確かめなければならなかった。

 娘を亡くした夫妻のため、婚約者を亡くした友のため。それから、処刑人としての自分のため。

 首斬鬼のように疑いようもない悪人ならば、刑を執行するときに、そこまで心を痛めることはない。忙しくとも、捜査官を続けているのも、自分が殺さなければならない相手の罪を確信するためだ。

31話

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