断頭台の友よ(32)

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31話

 一人娘の結婚は、商売のためであった。マイユ家の三男坊、オズヴァルトとの結婚はイヴォンヌに課せられた義務であった。

 だが、彼女は恋をしてしまった。相手は、バロー家の前の使用人頭の男だった。ゴーチエたちは男のことを信頼していた。何しろ、ゴーチエの祖父の代からずっと仕えてきた一族の出だ。裏切るはずがない。それに、イヴォンヌとも年齢が離れていた。何度結婚の世話をしようとしても、頷かなかった時点で、ゴーチエは娘から男を引き離すべきだった。

「あの男が、イヴォンヌを……!」

 イヴォンヌは男と密通し、妊娠した。商会の会長夫婦として忙しくしていた両親は、娘の異変に気がつくのが遅れた。わかったときにはすでに手遅れであった。二人は娘を別荘に隠し、相手の男を解雇して追い出した。

 結婚後、同じ階級間で同意があれば、愛人関係を結ぶことは男女ともに問題ない。だが、イヴォンヌは未婚。階級差も問題だ。使用人と主家の娘との恋愛は、物語としては成立するかもしれないが、現実では到底幸せな結末を迎えることはできない。この国では、貴族は貴族と、平民は平民と結婚するのが法律で決まっている。平民の中でも階層が分かれていて、それを乗り越えるのは至難の業だ。そして極秘出産も、厳罰の対象である。

 クレマンは、そんな女たちを何人も吊ってきた。そう、女ばかりだ。いつだって、不貞の証を宿し、罪を背負うのは女ばかりだ。

 バロー夫妻は、イヴォンヌを失いたくない一心で、彼女を隠した。婚約者のオズヴァルトにもわからないように。妊娠したことは露見しなかったが、結果として、イヴォンヌは誰かに殺されてしまった。青い顔をした、儚い美女。彼女の人生を思うと、胸が痛む。

 愛した男と結ばれることなく、生んだ我が子は取り上げられる。家のための結婚を強制され、最後は首を斬られて死んだ。

 カペラは涙を拭いながら、気を取り直したのか、クレマンを睨みつけた。

「それで? 私たちの娘の不名誉な姿を暴き立てて、あなたはいったい、何がわかったというのですか?」

 何も。

 何もないことに、クレマンは我に返る。死体を見たときに気になっていた謎の肉割れの真相がわかった。しかし、それが何になる? 犯人の心当たりが生まれるわけでも、新たな手掛かりに気づくわけでもない。夫妻が必死に守り続けてきた娘の真実を暴き立てた、下世話な人間に過ぎない。

 正義の使者気取りで身に着けた仮面が、ずるりと脱げ落ちた。二人を追い詰めた冷徹さも何もなく、ただ狼狽えるだけだ。

「あ……ええと……」

 言い淀むクレマンに、バロー夫妻は静かに、ただ静かに、退出を促したのだった。

33話

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