断頭台の友よ(43)

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42話

 サンソン一族の墓は、他の貴族たちと同様、王都の立派な教会が持つ北の墓地にある。祖父が爵位を賜ったときに、移設したものであった。

 王都の北門から出て、馬車に揺られてややすると、開けた土地が見えてくる。王家の陵墓も同様で、ひとつ高い丘の上に、宮殿といっても過言ではない規模の墓が立っている。創立祭のときには、貴族のみならず、平民にも解放される、神聖な場所だ。

 クレマンは思い立ち、母と兄の墓参をすることにした。彼らが眠るのは、しかし、北の墓地ではない。

 家の隣の森の中に、ずんずんと入っていく。薬草が自生する場所だが、サンソン家の私有地ではない。誰が管理しているのか曖昧なのをいいことに、私物化してきた。

 道なき道を、クレマンは迷わずに進む。辿り着くのは、開けた場所だ。鬱蒼と生い茂る梢のせいで、昼間でも薄暗い森の中、ここだけぽっかりと空が見える。

 もうすぐ春になる。早咲きの野の花を摘み、大きな岩の前に、クレマンは捧げた。

 ここは母と兄が眠る場所。正当な墓所に、彼らを埋葬することは叶わなかった。

「兄さん、母様。お久しぶりです」

 この間訪れたのは、秋の頃だ。落葉樹が赤や黄色に葉の色を変え、墓周りの掃除が大変だったのを覚えている。クレマンは持ってきた布きれで暮石というには粗末な巨石を拭う。名前が刻まれていない、整形されていないただの自然岩は、その下に死者が眠っているとは到底思えない。

 なぜなら、彼らの弔いは禁じられているから。

 クレマンは跪き、祈りの形に手を組んで、目を閉じる。

 母と兄の遺体は、そのまま棺に入れられるのではなく、一度燃やされた。残った骨片と灰を搔き集め、この森に埋めたのは、父だ。クレマンは泣きながら手伝うだけだった。

 自ら命を絶った者は、死者として扱われない。神に与えられた命を全うせずに放棄した罪は重い。遺体は燃やされる。たとえ神の国に復活するときがきても、還る肉体がなければ、蘇ることができない。当然、親族と一緒に埋葬することは、禁じられていた。

 兄は、処刑人と医師との二重生活に、耐えられなかった。一方で人に慕われ、一方で忌み嫌われる。自分自身は一人しかいないのに、二つに乖離していくことに、心を病んでいった。

 いつまで経っても起きてこない兄を起こしにいった母の、絹を裂くような悲鳴が記憶に鮮明に残っている。父とともに、犯罪者の首を吊ってきた兄は、最後に自分の首を吊った。

 母は兄を溺愛していた。彼を亡くして、母もまた、壊れていった。十歳で跡継ぎ教育を受けるようになったクレマンを、彼女はクレマンと認識しなかった。兄の名前で呼ばれることはしょっちゅうで、まだましな方。お前は誰だと叱責され、髪の毛を掴まれ、追い出されそうになったことだってある。

 暴れているうちが花だった。ぼんやりと生きるようになった母は、みるみるうちに衰えていった。骨と皮だけになった母はある日、父の薬品棚を漁り、手当たり次第に口の中に放り込んだ。その中には当然、ラックベリーの種も含まれていたし、他にも毒であり薬でもある様々なものがある。どれがどう作用したのかは、わからない。母の死体は、もがき苦しんだことが一目瞭然であった。白目を剥き、首や胸を掻きむしっていた。せめて即死であればよかったのに。

44話

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