断頭台の友よ(50)

スポンサーリンク
十字架 ライト文芸

<<はじめから読む!

49話

 誰ともすれ違わないように連れてこられた部屋に、遅れてやってきたのは、薄毛の男であった。残された髪の毛もほとんどが白いもので、相当年配であることは見てとれた。身なりは粗末とまではいわないが、あまりかまわない性質らしく、ジャケットの袖についたボタンは、取れかかっている。

 誰だ?

 百合の紋章で呼び出されたからには、てっきり国王と謁見するのだと思っていたクレマンは、仮面の下で怪訝な表情を浮かべる。

 自分同様、王宮は初めてなのだろう男は、汗を拭きながら自己紹介をした。

「初めまして。処刑人殿。私、ジェラール・ギヨタンと申します」

 彼が医者だと名乗るものだから、まさか自分の正体が露見したのかと焦った。

「先日あなたによって斬首された、カルノー夫人の主治医でした」

 クレマンの想像に反し、ギヨタンは糾弾することはなく、穏やかな表情で話を進めていく。マノンの主治医ということは、クレマンより先に、彼女の症状と向き合ってきた医師である。彼の治療はマノンにとっては効果が薄く、結果、自分が取って変わることになった。

 仕事を奪ったようで、なんだか申し訳ない気持ちになるが、自ら正体を明かすことはあってはならない。名乗り出そうになるのをぐっと堪え、クレマンは「それで?」と、声を出さずに続きを促した。

「彼女の処刑を、私も拝見いたしました。処刑人などという恐ろしい職業に就く人ですから、勝手におぞましい人物であると思い込んでおりました」

 好きで処刑人になったわけではない。ギヨタンの父が、祖父が医者であっただろうのと同じように、家業を継いだだけだ。勝手に怯えられ、忌み嫌われることには、もはや慣れきっていた。

 感情など一切表れないはずの仮面だが、ギヨタンには何かが見えたのだろう。慌てて首を横に振り、「今はそんな風には思っておりませんよ」と弁解をした。クレマンにとっては、どうでもいいことだったが。

「むしろ、彼女の尊厳を守っていただき、感謝しております。あなたはとても、紳士的な人だ」

 高く評価されることは、クレマン・サンソンとして生活しているときでも滅多になかった。陰気、根暗、頼りなさそう・・・・・・負の言葉で表現されることばかりのクレマンの機嫌は、少し浮上した。

 ギヨタンは年に似合わぬほど目をギラギラと輝かせた。夢を語る少年のようである。自分には果たして、こんな顔をしていたときがあっただろうか。

「あなたであれば、私の理想を理解していただけるのではないかと思い、高等法院に取り次ぎを依頼したのです」

51話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました