断頭台の友よ(54)

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53話

 ギヨタンとの邂逅と、国王陛下との謁見に正気を失いかけたクレマンだったが、遊んでいる場合ではない。マノンが最後に教えてくれた手がかりを、無駄にするわけにはいかない。

 明日の旬日には、絶対に例の集会に行く。そう心に決めて、今日の務めを終えたクレマンは、帰宅した。イヴォンヌとアンベールの姿絵や死体検案書の写しを持ち、準備は万端である。

「お帰りなさいませ」

 夕飯をすでに作り終えたブリジットは、繕い物の手を止めて、出迎えてくれた。クレマンはどこぞの色男のように艶然と微笑みながら抱きしめる、などという真似はできない。ありがたいと思う以上に、彼女のやりたいことを中断してまで迎えに来てくれなくてもいいのに、と申し訳ない気持ちの方が強い。何かを待っている様子の彼女に上着を渡すと、パッと頬を紅色に染めた。

「すぐにお食事にしますね」

 パタパタと動いて、ブリジットは夕食のスープを温め直す。明日は休みということもあり、香草をすり込んで焼いた鶏肉も入っている、少し豪華なものだった。

「いい匂いだね」

 鼻をひくつかせて褒めると、ブリジットははにかんだ。鶏肉を多めによそってくれたのは、彼女なりの照れ隠しと喜びの表現であろう。二人で食卓につき、神に祈りを捧げてささやかな晩餐が始まる。

 スープは塩加減もちょうどよく、野菜も肉も柔らかい。硬めのパンを浸して食べると、じんわりと腹に優しく溜まっていく。食事の最中に、今日の出来事を報告し合う家庭もあるそうだが、サンソン家の食卓は静かであった。ブリジットは日中家事をしていて、大事件に遭遇することもそうはない。クレマンはといえば、食事中に仕事の話をするのは避けるべきであろう。

 静かな食事が半分ほど済んだところで、ドアが音を立てた。休日前の夕食時、誰かが訪ねてくるような時間ではない。ブリジットと顔を見合わせていると、再び音がした。紛れもなくノック音である。

「はい」

 ブリジットは小走りに、玄関へ向かう。クレマンは口元をナプキンで拭った。もしかしたら、急患かもしれない。腹が痛い、熱が出たという患者の診療をするのに、食べかすがついているのはまずい。

 立ち上がりかけたクレマンは、来訪者の顔を見て、すとんと座り直した。オズヴァルトであった。彼ならば、ほとんど身内のようなものだから、この時間帯の来訪も納得できる。一応は申し訳ない顔をして、手土産に葡萄酒を持ってきたようだから、許そう。

「残り物でごめんなさい」

 ブリジットは夕食の残りのスープを温めよそい、クレマンは渡された葡萄酒の封を切り、グラスに注いだ。

55話

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