断頭台の友よ(55)

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54話

「何に乾杯する?」

 問われ、クレマンは首を傾げた。しかし、考えるまでもない。

「事件の解決を願って」

「……そう。それしかないよな」

 苦笑したオズヴァルトは、グラスを掲げた。

 イヴォンヌが殺されてから、ほぼ進展がないまま数ヶ月。その間、首斬り鬼による犯行と思われる事件は起きていない。もともと周期的に犯行を行う殺人鬼ではなく、何ヶ月も雌伏していたかと思えば、立て続けに殺したりもする。今は虎視眈々と、獲物を狙っているのかもしれない。

「それで、オズ。今日ここに来たってことは」

 お互いに自分の得意分野で捜査を続けており、進展があったときには手紙で報告をしあっている。だが、オズヴァルトはクレマンほど筆まめではないため、こうして何の前触れもなく訪れることがあった。

 オズヴァルトは頷いた。

「社交界に顔を出して、イヴォンヌのことを大げさに悲しんでみせていたら、声をかけられてね」

 暗い顔をした連中だったよ、とオズヴァルトは嫌そうな顔をした。美形は顔をしかめていても、いい男なのだな、などと思いながら、じっと見つめていたクレマンのことを、オズヴァルトは勝手に解釈をして、慌てて弁解を始めた。

「いや、君は暗いというよりは……そう、物静かで威厳があるっていうんだ。うん」

 クレマンは自分がいかに陰気くさいかを理解しているので、オズヴァルトの言には耳を貸さない。それで、と彼に話しかけてきた人間たちのことを知りたくて促す。オズヴァルトは目をぱちぱちとさせて、それから溜息をついた。

 男たちは、オズヴァルトを煙草室に誘った。実際に煙草を吸うかどうかはこの際関係ない。そこは男だけの社交場であり、時間帯によっては誰もいないことがある。女性には聞かせられない猥談をはじめ、密談や内々の取引などにはうってつけであった。ダンスの時間帯は、パートナーがいる紳士たちは広間にいる必要があり、彼らはその時間を狙った。

 煙草室では、誰も煙草をすわなかった。男たちはオズヴァルトを取り囲んだ。

「逃げられないようにって感じだったな。まあ、逃げてきたんだが」

「大丈夫だったのか?」

 オズヴァルトは肩を竦め、「あんな連中、俺の敵じゃないね」と笑った。

 彼らは、婚約者を亡くして嘆き悲しむオズヴァルトを、ある集会に誘ったのだという。

「集会……」

 なんだかとても嫌な気がした。クレマンの呆然としたつぶやきに気づくことなく、オズヴァルトは「そう」と人差し指を立て、クレマンに自分のつかんだ情報を教えてくれる。

「自殺志願者が集まる教会っていうのが、あるらしい」

 やはり、そうか。

 クレマンは気づかれないように、細く息を吐き出した。まだだ。まだ、決定的な話にはつながっていない。

56話

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