断頭台の友よ(59)

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58話

「いえ。あなたのように輝いた目の持ち主は、珍しいものですから」

 言われてクレマンは、さっと集会参加者たちを見回した。こちらに興味をもっている人間の目は、なるほど、暗い。当然か。ここにいるのは全員、自殺志願者だ。朗らかに「私、死にたいんです!」と叫ぶ人間はいない。新参者に興味がなく、ただ俯いて爪を噛んでいる婦人もいるが、彼女はその中でも重症ということだろう。

 はて。疑問に思われなかった自分は、彼らと同じくらい、陰気だということか。マノンにも、「アンベールと同じ目をしている」と言われたことだし。

 知りたくなかったことにうっかり思い当たったクレマンを後目に、オズヴァルトは司祭と話をしている。

「目は生まれつきのものですよ・・・・・・私はつい先日、婚約者を亡くしまして」

 宝石のような瞳を伏せて悲しげな表情を作ったオズヴァルトに、司祭は慌てて「ああ、申し訳ありませんでした。部屋に移動してから、じっくりお話はお聞きしましょう」と遮った。

 集会は礼拝堂ではなく、もっとこじんまりとした部屋で行われた。司祭が手ずから入れた茶を受け取る。嗅いだ覚えのある匂いだった。思わず、「ラックベリーですか?」と言ってしまったクレマンに、司祭は非常に驚いた。

「ええ・・・・・・よくご存じで」

「ああ、私も仕事で扱っているので」

 詳しい効用についてはこの場で話すことでもないので、「なんだラックベリーって」という目でじとっと見てくるオズヴァルトを肘で押しやった。

 自作ではなく、誰が専門家に調合してもらったのかもしれない。クレマンがラックベリーの種に気づいていることを知っても、司祭は慌てたり怯えたりする様子はない。それでもクレマンは、口をつける気にはならなかった。オズヴァルトはそれを見て、カップをテーブルに置いた。

 集まったのは、司祭とクレマンたちを除いて十人だった。オズヴァルトが「俺を誘った連中、今日は来てないみたいだ」と耳打ちする。参加するもしないも自由な集会なのだろう。出欠を取ることもなければ、新しい参加者のクレマンたちの自己紹介などもなかった。

 薬草茶を飲みながら、境遇について話すのが目的らしい。それぞれの生い立ち、死にたいと思ったことを、ぽつりぽつりと語る。クレマンは聞いていて、鬱々とした気分が高まっていくのを感じた。

 ある者は子供の頃から父親に殴られ蹴られの暴力を振るわれ、毎日辛い思いをしている。父を殺すか自分を殺すかのどちらかの選択肢しかないと思い込んでいる。ある者は友人を助けた結果、返しきれない借金を背負い、子を売るかどうかの瀬戸際である。家族を不幸にするくらいなら、いっそのことともに死んでしまおうか。

 語るに合わせ、聞いている人々の反応は様々である。共鳴して静かに涙を流す女性に、聞いているのかいないのかもわからない、ぶつぶつと何かをつぶやいている初老の男性。聞いていようがいまいが、語り手にも関係がないようだ。

 司祭は諫めたりしなかった。ただ、話すに任せ、涙を流すに任せている。クレマンは思わず慰めそうになったが、司祭に止められた。

60話

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