断頭台の友よ(6)

スポンサーリンク
十字架 ライト文芸

<<はじめから読む!

5話

 クレマンが九つの年、ずっと年齢の離れた兄が死んだ。

 ムッシュウ・ド・パラーゾと呼ばれ、王都の治安維持に努めるべきは兄であった。そうはいっても、クレマンが自由に生きることは許されていなかった。処刑人の家に生まれた子供は、処刑人にしかなれない。地方の処刑人の家に婿養子に行くか、そこから嫁をもらって、兄を支えて生きていくかのどちらかしか許されていなかった。

 兄はいつだって優しかった。祖父が隠れ蓑のために買った爵位だ。特別に蓄えがあるわけじゃない。口にするのは庶民と変わらない粗食で、子供の時分のクレマンは、いつだって腹を減らしていた。兄はクレマンに自分の食事を分け与えてくれた。兄だって、まだまだ成長期真っ盛りで、食事が足りていたとは思えないのに。

 ひょろりと背が高く、痩せぎすなのは父も兄も同じであった。残念ながらクレマンは、身長については二人には似ず、容姿に関して褒めるべき点は一切なかった。

 父は、兄には処刑人としての心構えを厳しく教え諭した。父は兄を鞭打った。言葉通りに。拷問のときに扱う鞭を取り出して、どれだけの力で打てば、人間の皮膚を切り裂くことができるのかを実地で体験させるなどした。

 兄の死後、クレマンの教育は、急激に推し進められることになった。初めて仮面をつけ、処刑台に上がらされたのは、十の年だ。当然、何の役にも立たないお荷物である。暴れる囚人を取り押さえることも、何代も前の王から下賜されたエピ・ド・ジュスティス――正義の剣を掲げることもできない。

 父も幼い息子に、何らかの役割を期待していたわけではない。年長ですでに力も体格も大人と同じだけあった兄とは違う。体力の衰えを感じていた父は、焦っていたのだ。これまであまり構ってこなかった次男の教育には、あまり時間をかけてはいられない。  仕事に対する心構えも、犯罪者への拷問の仕方も、それから表向きの稼業のことも、すべてを伝達するまでに、兄は十三の年から始めて、二十一までかかった。いよいよ代替わりというところで、父ではなく兄が死んだ。

7話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました