断頭台の友よ(60)

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59話

「それでは、新しく参加されたあなたは、いかがですか?」

 話を振られたオズヴァルトは、クレマンと目を合わせた。決意の色を宿した青に向かって、クレマンは小さく頷いた。

「実は先日、婚約者を亡くしまして」

 悲痛な顔をして見せれば、中年女性が「まぁ」と哀れみを向けた。彼女は先ほどから、皆の話に相槌を打っては涙を浮かべている。たいそう生きにくそうな人だ。

「それが、普通に亡くしたのではなく……巷を騒がす殺人鬼に殺されてしまったのです」 

 クレマンはじっと司祭を見つめた。集会にやってくる人々は、入れ替わりがある。実行に移してしまう者もいれば、問題が解決して、死にたいという気持ちが消えた者もいるだろう。

 だから、会合が始まったときからずっと参加している司祭を疑うのは、当然だった。

 オズヴァルトの朗々とした声での告白は、我関せずであった参加者の心にも響いたらしく、美貌の青年を見上げている。その頬にさっと色が差したことに、クレマンは「おや」と思った。

 恐怖というよりも、これは。

 司祭はといえば、ひとつも顔色を変えなかった。他の参加者に対して同様、淡々と喋る言葉を聞いている。オズヴァルトがイヴォンヌの名前を出しても、変わらなかった。

「それで、あなたは?」

 司祭はクレマンにも話を振った。少し考えたが、作り話の才能はない。そういうのは、オズヴァルトの専売特許だ。正直に、「私は彼の付き添いですので」と言うと、司祭は初めて表情を崩した。なんだ。そんなにも自分は、自殺しそうな顔つきをしているのか。醜男ではないと認識しているのだが、オズヴァルトの隣にいるせいで、余計に辛気くさく見えているのか。

 その後も特に益のある話をするわけでなし、集会はしめやかに閉会した。二人は全員が教会を出るまで待つ。

「司祭様」

 礼拝や集会の後片付けをする司祭に声をかける。まだ帰らないのかという顔になるが、司祭が信徒を邪険にしてはならない。

「どうされましたか」

 笑顔を浮かべようとして、ひきつっている。クレマンは襟を正す。ここで手がかりを得なければ、結局迷宮入りだ。

「アンベール・バルテルという人物を、ご存じですね」

 姿絵を突きつけて、確信をもって聞いた。神の道に入った者は、天の父の嫌う嘘をつくことができない。案の定、彼は顔を苦痛に歪めた。この世の汚れをすべて背負って昇天した救世主にそっくりだとクレマンは思う。人の世を救うために、狂った価値観で罪を犯す確信犯たちと同じ顔。クレマンは嫌というほど見てきた。

「ええ」

 逡巡した後、司祭は肯定した。

「彼が、首斬り鬼に殺されたことも?」

「そう……でしたね。ええ、そうです」

 記憶が曖昧だという素振りを見せる司祭に、こちらならば記憶も新しかろうと、クレマンは女の名前をぶつけた。

「さきほどは素知らぬふりをしていたようですが、彼の婚約者であった、イヴォンヌ・バローについても」

「クレマン!」

 悲痛な声をあげたオズヴァルト。まだ覚悟ができていなかったというのか。クレマンは彼を見上げ、「もう僕たちには、ここしか手がかりが残されていないんだよ」と説得する。渋々引っ込んだ彼を、痛ましいものを見るような目で見た司祭は、首を縦に振った。

「他にも被害者が、いますね?」

 これはただの勘であったが、真実であると疑っていなかった。先ほどオズヴァルトが首斬り鬼に恋人を殺されたのだと語ったときの、あの場の空気への違和感。怯えるでもなく、同情するでもなく、恍惚と憧れに濡れた目をオズヴァルトに向けた、何人かの参加者……。

「この会に来れば、いずれ首斬り鬼に殺してもらえる。自分で命を絶つ勇気のない臆病者たちには、願ってもないことでしょうね」

 厳しいクレマンの叱責に、司祭は怯んだ。小柄でおどおどするばかりの自分が、強面の彼を圧倒していることに、クレマンは軽く高揚を覚える。一歩足を踏み出して近づくと、司祭は逆に、一歩引き下がる。

61話

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