断頭台の友よ(63)

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十字架 ライト文芸

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62話

 クレマンはあまりの凄惨さに吐き気を覚えた。死体には慣れている。大人の死体には。

 血の海の中にごろごろと転がるのは、人形ではない。つい数時間前までは生命を宿していた抜け殻だ。クレマンは吐き気を堪えて、死体の懸案を行う。

 いつもどおり、死体の首はすべて斬られている。軽い首は子供の遊ぶボールのように、あちこちに飛んでいる。着ている服は皆似たり寄ったりで、首と胴体で組み合わせることは至難の業であった。

 現場は東の孤児院。殺されたのは、乳児の間に寝かされていた一歳未満の赤ん坊ばかり、十人であった。

「なぜ・・・・・・」

 さすがにこの人数、しかもこれまでとは違い、物心もつかぬ子供ばかりが殺されたとなると、高等法院も黙ってはいなかった。現場のスケッチや検証を行う捜査官は、呆然とつぶやくクレマンを邪魔そうに一瞥する。クレマンは、目の前の光景が信じられない。

 首斬り鬼の標的は、自殺志願者ではなかったのか。被害者の半分は、元傭兵の司祭が開いた会合に参加していた。残りの半分についても、現在オズヴァルトが聞き込みを進めており、ほぼ間違いなく何らかの事情に追い詰められていたという。

 彼のもの言いたげな目には気づかなかったふりをして、報告を受けた。イヴォンヌの裏切りを告げることはできない。

 クレマンたちの間では、首斬り殺人は自殺の代理執行であるという結論が出ていた。そのつもりで、報告書もまとめていたのだが、ここに来て狂った。

 赤ん坊が、死にたいと思うわけがない。

「サンソン。何か気づいたことでもあるのか?」

 被害者の共通点を知らない上司たちは、衝撃を受けてはいるものの、大きな疑問は抱いていない。クレマンは説明をする気にもならず、首を横に振った。

 王都では、殺人のみならず、事故や急病による不審死が多い。死体に慣れた捜査官は、物のように片付けていく。それを眺めているのも辛い。クレマンは、早々に事件現場を退出した。

 孤児院の中は、物々しい。普段ならば、子供の声が聞こえてきてもおかしくないはずだが、今は外に出ることを禁じられている。たまに、好奇心に負けて十歳にも満たないほどの男児がひょっこりと部屋から顔を出すが、年長の子供や職員に連れ戻されている。

 クレマンが選んだ一室には、第一発見者の女性がいた。修道女見習いとして、教会から派遣されている彼女はまだ若く、惨状に神経が耐えられなかった。なんとか院長に伝えたところで力尽き、今はベッドの上に寝かされている。

64話

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