断頭台の友よ(66)

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65話

「どうなってやがる!」

 同僚が叫んだ。クレマンはあまりの大きな声に一度びくりと肩を震わせる。驚きはしたが、完全に同意であった。

 何せ、三日と開けずに孤児院で殺人事件が立て続けに起きたのだ。前回の乳児殺しは東の孤児院であったが、今度は西の孤児院である。被害者は、十二歳の少女であった。

「サンソン、どう見る?」

 クレマンがずっと首斬り鬼を追い続けていることを知っている同僚に呼び寄せられ、意見を求められた。

 先日の東の孤児院の事件もおかしな事件であったが、今回もまた、首斬り鬼の犯人像とはかけ離れた部分がある。ちぐはぐな印象が気持ち悪い。

 確かに、首は切り落とされている。刃物の扱いに手慣れた人物のものではないことは、切り口が物語っている。殺されたのは、思考も言語も年相応に発達した少女であった。同じ年頃の少年よりも大人びているのは、己も通ってきた道だ。

 今回の被害者は、自殺願望があったのかもしれない。若い、若すぎる身空で何を世を儚むことがあるものか。大人はそう憤りを覚えるが、子供には子供の、何か切実な理由があるのかもしれない。

 しかし、首斬り鬼の仕業だと断定することはできなかった。

「例の犯人は、性的暴行を加える嗜好はないはずなのですが……まして、子供に」

 少女は全裸であった。十二歳といえば、身体の発達も個々人によって異なる。発育のいい子供であれば、大人顔負けの体型をしていることもあるかもしれないが、被害者は子供体型であった。乳房は痩せた肋の上に載っていて、膨らみどころか抉れているように見える。

 脱がされているだけならばまだしも、性器には明らかに、強姦された形跡が残っていた。乾いた血の中に、白い精液が混じり込んでいる。この子種の主が犯人だと思うと、すべて掻き出して調べたい気持ちに駆られたが、体液から個人を同定する技術など、この世に存在しない。

 また、死体遺棄現場が外であることも、珍しかった。前例がないわけではないが、そのときと違うのは、今回は死体を引きずった後があること。すなわち、実際の犯行現場は別だということだ。犯人は、何を隠そうとしているのだろうか。

 何よりも、切り取られた首がその場に残っいなかった。戦利品として集める性質ではないから、本当に首斬鬼が犯人であるならば、理由があるはずだ。

「大人の女に食指が動かない変態なだけだろうさ」

 心底憎たらしい、と吐き捨てた男にはそういえば、一人娘がいた。年の頃も被害者と同じくらいだ。娘が犯人の餌食になってしまったことを想像して、胸糞悪くなっている。彼には落ち着いて、新鮮な空気を吸ってくるように勧めた。

67話

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