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<6話
父に連れていかれたのは、横領の罪に問われた騎士の処刑であった。宝物庫の警備担当であったのをいいことに、組まされた同僚の目をかいくぐり、窃盗を働いた。横領罪を償うには、両手を切り落としたうえ、横領額の三倍を賠償金として支払うのが一般的だった。
しかし、この騎士は賠償を拒んだ。国庫から掠め取った金銀は、闇市場で売買された。間に入った仲買人たちへの手数料でほとんどが消えていき、手元に残った金は、騎士の実家の生活費になった。彼の家は困窮していた。賠償金を払うには、妹だけではなくすでに他家に嫁いだ姉、それからとうに女の盛りを過ぎた母親まで、身売りをしなければならなかったが、家族思いの騎士には、到底我慢ができなかった。
このため、彼は両手だけではなく、首を切り落とされるに至ったのであった。
初めて間近で見た死であった。三つの頃に、同居していた祖母が亡くなった。朧げにしか記憶にない。床に就いたまま、眠ったままで呼吸と心臓を止めていたから、最期まで苦しむことはなかっただろう。クレマンの知る死は、伝え聞いた彼女のものだけだ。
だから、苦痛に叫び、身をよじらせて全身で拒絶するような死に際の姿は、知らない。跪き、両手を手首のところで台の上に固定したところまでは、騎士たる者は死に臨んでも立派なものなのだと、子供ながらにドキドキした。
しかし、実際手首から先がなくなると、男は叫び声を上げながら、血を撒き散らした。薄刃の剣でスパリと切り落とすというよりも、叩き切るという動作に近い。骨は途中で割れ、血肉の中に白として見え隠れする。痛みやいよいよ間近に迫った死への恐怖というよりも、ただ純粋に、剣を振り生きてきた己のすべてを取り上げられた、その悲しみへの慟哭のようだった。
暴れまわる騎士を、父と助手たちが抑え込んだ。クレマンはおろおろと処刑台の隅をうろちょろと逃げ回っていた。台座に戻すのは不可能だと思われたそのとき、父は決断した。タイミングを見計らい、手持ちの剣で騎士の首を落とす。
毎夜毎夜、一族の長が研ぎ続けてきた刃はよく切れる。しかし、屈強な騎士の男の首を一気に斬り落とすには、父の膂力も不足していた。刃を半分埋め込まれた状態でも、男は暴れまわった。助手たちは振り回され、今にも処刑台から落ちそうである。
この公開処刑は、見物人には大層面白がられた。展開を読めていた人々の中には、わざわざ二階のテラス席を予約し、酒を持ち込んだ者もいた。暴れまわる囚人と、御そうとする処刑人。果たしてどちらの命が失われるのか。単調な処刑よりも、見せ物としてよほど面白い。
>8話
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