断頭台の友よ(78)

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十字架 ライト文芸

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77話

「!」

 隣でぐっすり眠っていたはずのクレマンが突如起き上がったことに、院長は驚き、動きを止めた。だが、一緒に眠っていた女は声が出せないことを思い出した彼は、にたりと笑って、隠し持っていたナイフを取り出した。

 万が一、クリスティンが目を覚ましたときには凶器で脅そうとしたのだろうか。いや、ひょっとすると、アリスの死体の第一発見者である彼女をまた、殺そうとしたのかもしれない。オズヴァルトや自分に、都合の悪いことを言わないように。知能に障害があると思われているとはいえ、子供は何を言い出すかわからないから。

 クレマンは、月光を反射して光るナイフに怯えた素振りを見せた。男はずっと、にやにやしている。クレマンをすぐに殺すわけではなく、先に「お楽しみ」を味わってから殺せばいいと思っている、その考えが命取りであった。

 首を横に振って逃げようとするクレマンの手首を、男が捕らえた。女にしては骨張った骨格や、手首の太さに違和感を抱くかと思ったが、彼はそんなに賢くはなかった。女衒の女の肉体は、相当熟れているのだろう。女体を味わうことのできる興奮に、我を忘れていた。

 強く引かれて、ベッドの上に戻されそうになった瞬間を狙い、クレマンは下着に隠していた「爆弾」を、彼の目を目がけてぶつけた。衝撃で中身が飛び出し、液体が彼の目の中に入る。

「ぐ、ぎあああああ!?」

 断末魔もかくや、という悲鳴を上げた男は、目を押さえている。立っていることもできずに、床をもんどり打つ。騒ぎを聞きつけ、目を覚ました職員や子供たちが何事かと駆けつけてくる。クレマンはネグリジェを整えて、自分の手には触れないようにして、男の目元にさらに液体を塗り広げた。あまりの痛みに悶絶する男の手から落ちたナイフも回収する。

「どうしましたか!?」

 クレマンの元にやってきたのは、孤児院の関係者だけではなかった。騒ぎを聞きつけて、表にいた捜査官たちも駆けつけた。彼らは床の上で痙攣している院長と、化粧が崩れて半分男に戻ってしまっているネグリジェ姿のクレマン、それからすやすやと眠る少女を見て、これは一体、本当に何事だ、と、顔を見合わせたのだった。

79話

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