断頭台の友よ(82)

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十字架 ライト文芸

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81話

 しばらくドタバタしていたが、ようやく西の孤児院の新しい院長が決まった。教会から派遣された修道女で、東の孤児院の院長とも懇意にしている。クレマンは胸を撫で下ろした。あの自らを律し、子供たちのために奔走している院長の友人であれば、立派な人物であることは察せられた。

 クレマンはオズヴァルトと連れ立って、クリスティンを迎えに行った。二人の姿を見ると、彼女は強姦未遂の被害者とは思えない屈託のなさで近づいてくる。眠り薬によって意識を失っていたのが不幸中の幸いで、彼女は何も知らなかった。捜査官や職員たちが騒いでいる中でも、ぐっすりと眠りこけていたくらいである。

「おじさん!」

 相変わらずおじさんなのだなあ、とクレマンは少しだけ悲しい。これで、同い年のオズヴァルトのことを「お兄さん」と呼ぼうものなら立ち直れなくなるところだったが、彼女にとっては一律で「オズおじさん」だったので、気を取り直して彼女を抱き上げようとした。

「君にはちょっと荷が重いな」

 そんな風に親友に止められてしまったけれど。

 オズヴァルトは軽々と少女を抱き上げた。悔しい気持ちを隠して、二人は馬車に乗って、ひとまずクレマンの家に向かった。孤児院から遠くに出かけるのも初めて、馬車に乗るのも初めてというクリスティンは、興奮していたが、やがて眠ってしまった。

 サンソン邸にたどり着くと、彼女は寝ぼけ眼を擦りながら、これまたオズヴァルトに抱かれて下車する。馬の蹄の音を聞きつけて、ブリジットは家から出てきた。

「お帰りなさい、あなた。それにいらっしゃい、オズヴァルト様。それから」

 オズの腕の中で、見知らぬ女性の登場に緊張しているクリスティンに目を向けて、ややぎこちないながらも微笑みを浮かべる。ああ、これは練習をしていたんだろうな、と夫であるクレマンにはわかった。

「初めまして、クリスティン。私はブリジット。これから少しの間、よろしくね」

「ブリジット」

 名前を繰り返すクリスティンに笑って、「さぁ、ご飯ができているわ!」と先導した。開け放した扉からは、いい匂いが漂ってきた。

「ブリジットの料理はおいしいぞ。おなかいっぱい食べていいからね」

 いいの? と、遠慮がちに言った少女の頭を撫でると、はにかみ笑いを浮かべて彼女は頷いた。

83話

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