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<86話
首斬鬼が、自殺願望をもつ者を殺しているのだと仮定して。
行きとはうってかわって、ゆっくりと馬に揺られながら、クレマンは思う。
生に貪欲な赤ん坊を殺す理由が、ずっとわからなかった。こちらの事件もまた、模倣犯なのではないかと疑った。
だが、イヴォンヌの子供の行方に思い当たったとき、あの犯行については、確実に首斬鬼のものであると断定した。
殺人鬼は救世主を気取っている。聖典でいうところの、すべての苦しみを取り去り給う神の子であると、勘違いをしている。
イヴォンヌの事件が嘱託殺人だとすると、彼女は自分の命だけではなく、最後の心残りである自分の子供のことも、首斬鬼に依頼した可能性が高い。
彼女が産み落とした赤ん坊のことを、どう思っていたのかわからない。愛していたのかもしれない。疎んじていたのかもしれない。いずれにしても、彼女が心の底から安寧を得るためには、子供が邪魔であった。
しかし、イヴォンヌ自身、子供がどこに行ったのかわからなかった。おそらくは孤児院、家から近いのは東側だったので、東の孤児院に捨てたのだと予想はできたが、そこまでだった。赤ん坊の顔の判断など、つくはずがない。
どれがイヴォンヌの子供なのかわからないのならば、同じ部屋にいる赤ん坊を全員殺せばいい。効率的でいいと首斬鬼は笑うだろうが、クレマンからすれば、短絡的だった。
クレマンは急ぎ高等法院に戻り、報告書を書き上げた。
東の孤児院の殺人を首斬鬼の犯行と断定したそのレポートは、役所の中を騒然とさせた。
>88話
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