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<94話
オズヴァルトはおとなしく、罪を認めた。尋問の際には、クレマンも黒衣を纏い立ち会った。当然、正体がばれないように無言である。
罪、とは思っていないのかもしれない。彼は以前、処刑人の職務の素晴らしさについて熱弁を振るっていた。死にたがっている人間の命を刈り取ることは、悪いことではない。彼は本気で、尋問官たちに滔々と自説を語って聞かせた。もちろん、誰も真剣に取り合うことはなかった。
クレマンが彼を傷つけないようにと秘密にしていたイヴォンヌの出産については、当人の口から聞いていた。
「あのアバズレ」
そう罵るくらいには、オズヴァルトは彼女のことを好きだったのかもしれない。
イヴォンヌは「私が死んでも、あの子は生きてるなんて死にきれないわ」と喚いた。彼女は自分が死ぬだけでは、救われない。後顧の憂いを断ち切るべく動いたオズヴァルトだが、生後間もない段階で引き離された赤ん坊をそれと判断する術はなく、仕方なく皆殺しにした。
推理通りであったわけだが、聞いているクレマンの胸は苦しくなった。オズヴァルトに対してもそうだが、イヴォンヌもだ。愛した男の子供を、いとも簡単にいらないと切り捨てるなど、同じ人間とは思えない。
クリスティンを殺した理由は、もっと身勝手だった。オズヴァルトは孤児の少女のことを、人間とも思っていなかった。道具でしかなかった。
「クレマンは親友だ。大切な友だからこそ、救いたかった。クリスティンを殺せば、彼は死にたくなるだろう?」
オズヴァルトは隣国で生まれ、実母がマイユ家の後妻となることで、この国にやってきた。偶然出会ったクレマンは、彼の心の琴線に触れた。
家業について、自死した家族について暗澹たる想いを抱きながら生きる自分は、オズヴァルトの目には、救いを求めてさまよう子羊に見えた。
クリスティンは、ずっと目をつけていた獲物が「死にたい」と彼に吐露するようになるための捨て石にされたのだ。
「俺には死にたがりの顔がわかるんだ。奴らは目が死人のそれだ。クレマンは出会ったときから死んだ目をしているくせに、死にたいとはなかなか言わないんだ。それどころか妻を娶り、子供を授かるなんて」
家族は死を思いとどまらせる、ほぼ唯一のものだと言ってもいい。オズヴァルトが目をつけた人間たちに、「私があなたの大罪を背負ってさしあげましょう」と持ちかけても、頷かない人間は大抵、大切な人がいた。
両親であったり、妻であったり、子供たちであったり。クレマンにとっては、ブリジットが現世に繋ぎ止めてくれる人であった。
もしもオズヴァルトが、クリスティンではなくブリジットを殺していたとしたら。
考えて、クレマンはぞっとした。マントの下で震える身体を抑えられない。
尋問官も同様の思いを抱いたのだろう。なぜブリジットを殺さなかったのか尋ねると、オズヴァルトは肩を竦めた。
「ブリジットは死にたいなんて思っちゃいないだろう? みなしごはどうでもいいが、単なる人殺しに俺は成り下がるつもりはないさ。まぁもっとも、子が流れたショックを受けた今なら、死にたいと言うかもしれないか」
惜しかった。二人一緒にいたなら、クレマンと一緒に救ってやれたのに!
>96話
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