断頭台の友よ(97)

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96話

 オズヴァルトの処刑の日は、雲ひとつない晴天であった。窓越しに彼の目と同じ色の空を見上げてから、クレマンは仮面を身につけた。

 親友だった男を地下牢から出し、馬車に乗せる。オズヴァルトは富裕層とはいえ、平民である。だから本来ならば、絞首刑に相当するのだが、ギヨタンが開発した新しい処刑具をお披露目するには、世間の話題をさらった首斬鬼はうってつけであった。見目も麗しく、首吊りで汚物を垂れ流す肉塊に成り果てるよりも、鮮血したたる生首の方が映えるという判断も、あったのだろう。刑罰というのは、えてして非合理に流動するものなのだ。

 馬車にいる間中、オズヴァルトは静かに聖歌を唱えていた。ただひたすら涙を零しながら。後悔や懺悔の気持ちは、その雫の中には含まれていない。大勢の罪を背負い、神の御許へ罷るという英雄的行為に酔いしれているのだと、クレマンは呆れた。

 処刑場となる広場は、いつも以上に大入り満員であった。馬車が着いたのを目撃した人間から、輪のように静寂が広がっていく。興奮していた群衆は、涙を零す美青年を見て、あまりのことに言葉を失ったのだ。

 階段を上がる前に、司祭が最後に慈悲と祝福を与える。誰よりも神を信じているオズヴァルトは真摯に祈りを捧げた。人々の目には、彼が真剣に、自分の罪を悔いていると映っているのだろう。物語としては、そちらの方が美しい。

 オズヴァルトの思想は、模倣犯や追従犯を生み出しかねない。そう判断され、新聞報道も抑制された。記者たちは不満げであったが、情報を漏らした人間は厳罰に処するという箝口令が敷かれたため、普段情報を売って小遣いを稼いでいる下っ端役人も、口を噤むことを選んだ。

 捜査官としてのクレマンは、お役御免だった。

 最終的に犯人を突き止めたことは手柄であったが、そうとは知らずに捜査の手伝いをさせていたことは、許されなかった。賞罰は相殺され、結局は罰が重かったため、即刻解雇されたのである。

 もともと、死に値する罪があるのかどうかを自分の目で確かめるために無理をして就いていた職である。辞めさせられたからといって、食べるのに困ることはない。ブリジットはあからさまにほっとした顔をして、膨らんだ腹を撫でていた。

 ブリジットの流産は嘘だった。彼女を実家に帰したのは、危害が及ぶのを防ぐためであった。妊婦に少々の長旅を強いたのは悪かったが、家にいればオズヴァルトの殺意を引き寄せていた可能性が高い。

98話

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