右手じゃ足りない(2)

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手 BL

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 手元に水着の女性の写真集を置いておくことに、飛鳥が耐えきれなくなるのではないか。

 祥郎は期待して、三日待った。

 しかし、飛鳥は祥郎の顔を見るなり、逃げ出してしまった。背中を丸め、挨拶のひとつもない。文字通り脱兎のごとく、というやつだ。

 一瞬だけ見えた飛鳥の表情は、「しまった」と強張っていた。彼は、自分の行動を後悔しているに違いない。

 夕食後のリラックスタイムに、祥郎はまず、玄関に立ち寄った。ボードのネームプレートが在寮表示の赤になっていることを確認して、二階の飛鳥の部屋へと向かう。

 今日こそ話をつけて、写真集を返してもらおう。 

 後輩たちが昭島の「早く」の催促に、ごまかしきれなくなって洗いざらい白状してしまう前に、どうにかしなければならない。

 階段を上がって、飛鳥の部屋へと向かう。

 北海道出身の男子学生のみが入寮できる北洋ほくよう寮は、閑静な住宅街に建てられている。勉学に集中できるようにと、防音のしっかりしている一人部屋だ。

 飛鳥の部屋のドアをノックするが、彼は出てこないし、返事すらない。聞き耳を立てても無駄で、祥郎はとりあえず、取っ手に手をかけた。

 個室には鍵がかかるようになっている。だが、少し力を加えただけで、ドアノブは下がった。

(不用心だな)

 まだ早い時間だが、眠っているのか。それとも、音楽でも聞きながら、勉強をしているのかもしれない。いずれにしても、施錠していないのはいただけない。

 寮長として、注意しておくべきだろう。一応「開けるぞ」と予告して、祥郎は扉を開けた。

 結果だけ言えば、飛鳥は部屋の中にいた。ただ、祥郎の予想していた姿とは違った。

 整理整頓された勉強机に、ノートや分厚い六法全書の類は置いていなかった。代わりにあったのは、例の写真集。しかも、一際セクシーな見開きショットが開いた状態で。

 勿論、それを使用していたのは飛鳥だ。

 ただ見ているだけならば、興味本位だと言い訳もできるが、彼の手は、ズボンの中に突っ込まれている。

 言い逃れはできない。

「あ……悪い。取り込み中だったな。出直すわ」

 驚きはしたものの、あっさりと祥郎は受け入れた。「汚らわしい」と言いつつも、飛鳥も男なんだから、魔が差すことだってあるだろう。そこを責めるのは、可哀想だ。

 祥郎はよかれと思って、さっさと退出しようとしたが、飛鳥の側はそうはいかなかった。

「ち、違うんです!」

 飛鳥は写真集を閉じて、慌てて立ち上がる。

 緩められていたズボンは、どうやらもともとかなりウェストがゆるゆるであったようで、だらしなくずり落ちて、飛鳥の足をもつれさせる。

 その状態で祥郎を引き留めようと動いた結果、飛鳥は見事にすっ転んだ。

「おい。大丈夫か?」

 駆け寄った祥郎は、ぎょっとして、何を言うべきかわからず、うろたえた。

「違う、違うんです……」

 壊れたように繰り返す飛鳥は、ぼろぼろと涙を零していた。

>>3話

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