<<1話から読む!
手元に水着の女性の写真集を置いておくことに、飛鳥が耐えきれなくなるのではないか。
祥郎は期待して、三日待った。
しかし、飛鳥は祥郎の顔を見るなり、逃げ出してしまった。背中を丸め、挨拶のひとつもない。文字通り脱兎のごとく、というやつだ。
一瞬だけ見えた飛鳥の表情は、「しまった」と強張っていた。彼は、自分の行動を後悔しているに違いない。
夕食後のリラックスタイムに、祥郎はまず、玄関に立ち寄った。ボードのネームプレートが在寮表示の赤になっていることを確認して、二階の飛鳥の部屋へと向かう。
今日こそ話をつけて、写真集を返してもらおう。
後輩たちが昭島の「早く」の催促に、ごまかしきれなくなって洗いざらい白状してしまう前に、どうにかしなければならない。
階段を上がって、飛鳥の部屋へと向かう。
北海道出身の男子学生のみが入寮できる北洋寮は、閑静な住宅街に建てられている。勉学に集中できるようにと、防音のしっかりしている一人部屋だ。
飛鳥の部屋のドアをノックするが、彼は出てこないし、返事すらない。聞き耳を立てても無駄で、祥郎はとりあえず、取っ手に手をかけた。
個室には鍵がかかるようになっている。だが、少し力を加えただけで、ドアノブは下がった。
(不用心だな)
まだ早い時間だが、眠っているのか。それとも、音楽でも聞きながら、勉強をしているのかもしれない。いずれにしても、施錠していないのはいただけない。
寮長として、注意しておくべきだろう。一応「開けるぞ」と予告して、祥郎は扉を開けた。
結果だけ言えば、飛鳥は部屋の中にいた。ただ、祥郎の予想していた姿とは違った。
整理整頓された勉強机に、ノートや分厚い六法全書の類は置いていなかった。代わりにあったのは、例の写真集。しかも、一際セクシーな見開きショットが開いた状態で。
勿論、それを使用していたのは飛鳥だ。
ただ見ているだけならば、興味本位だと言い訳もできるが、彼の手は、ズボンの中に突っ込まれている。
言い逃れはできない。
「あ……悪い。取り込み中だったな。出直すわ」
驚きはしたものの、あっさりと祥郎は受け入れた。「汚らわしい」と言いつつも、飛鳥も男なんだから、魔が差すことだってあるだろう。そこを責めるのは、可哀想だ。
祥郎はよかれと思って、さっさと退出しようとしたが、飛鳥の側はそうはいかなかった。
「ち、違うんです!」
飛鳥は写真集を閉じて、慌てて立ち上がる。
緩められていたズボンは、どうやらもともとかなりウェストがゆるゆるであったようで、だらしなくずり落ちて、飛鳥の足をもつれさせる。
その状態で祥郎を引き留めようと動いた結果、飛鳥は見事にすっ転んだ。
「おい。大丈夫か?」
駆け寄った祥郎は、ぎょっとして、何を言うべきかわからず、うろたえた。
「違う、違うんです……」
壊れたように繰り返す飛鳥は、ぼろぼろと涙を零していた。
>>3話
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