燭台の心許ない灯りが照らす部屋は、薄暗い。
まるで自分の行く末を案じしているみたいじゃないか。リッカはそう思う。
ベッドの横につけた椅子に座り、母と目線を合わせる。彼の顔はげっそりと頬が痩け、青白かった。ウェーブを描き背を落ちる赤い毛は潤いをなくしているし、そこだけリッカと似ている緑色の目は、どこか濁っている。
寝台に身体を起こした状態で、ゆっくりと息を吸っては吐く母とは、明日からしばしお別れであった。リッカは大陸中央に位置するエルフの国へと赴くのだ。
「すまないね。出発式には出られるかどうか……」
「いいえ、母上。母上は、無事に子を産むことだけをお考えください」
まださほど目立たない腹を撫でる母の姿は、さすが堂に入っていた。
何せ、オメガ族の王の務めとして、十四の年から毎年子を宿し、産み落としているから貫禄がある。それでも寄る年波には勝てず、ふぅふぅと呼吸をしていた。
母はその身に、生と死の両方を抱え込んでいる。
リッカは母から目を逸らそうとした。けれど、母の手が、そうさせてはくれない。頬を柔らかく包んで、自分の方を向かせた。
美しく、賢く、強い母は、リッカの憧れであった。緑色の目に射貫かれて、身体の力が抜けていく。
「お前のすべきこと、わかっていますね?」
はい、と即答した。
母を、兄弟を、友人たちを救うために、リッカは旅立つのだ。
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