<1話
六限が終わる時刻には、もう真っ暗になっている。一緒に講義を受けていた譲は始まりから終わりまでずっと眠っていて、終了後に恭弥が起こすと、大きな口で欠伸をした。
「どうする? 帰る? 送っていこうか?」
女の子じゃないんだからいいって、と恭弥は言わない。ただ首を横に振って、「これからまっすぐバイトでしょ? 遅れるからいいよ」とだけ言った。
それでも門まで送る、と譲はついてきた。恭弥の住む学生マンションは大学の裏手で、譲の働くコンビニは真逆の方向だ。好きにしてよ、と肩を竦めて二人で連れ立って歩いていると、門の傍に妙な人影があった。
変質者の類でなさそうだ。彼は学ランを着用していた。顔立ちも年相応のあどけなさを残しているので、コスプレなどではなく中高生であることは確実だ。
兄弟を迎えにきたのかな、と恭弥は考えて横目でその姿を見ると、彼はあっ、と細い目を見開いて近寄ってきた。反射的に恭弥は、譲の陰に隠れてしまう。
「あのっ、御幸恭弥さん……ですよね?」
声変わり途中のざらついた声が、ますます少年の幼さを助長した。そうだけどなに、と答えたのは恭弥ではなくて譲だった。恭弥だったら文句をつけているところだが、少年は心底ほっとしたように、くしゃりと笑った。
「よかったぁ……ずっと待ってたんだけど、会えないかと思った」
それから譲越しにまっすぐ恭弥のことを見つめて、高らかに宣言をした。
「先週、学園祭であなたのことを見て、一目惚れしました。俺と付き合ってください!」
>3話
コメント