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<19話
神崎と光希が屋台の食べ物を手に戻ってきた。千尋は最後に恭弥の頭を叩いて、
「きっとね、俺より全然、君にお似合いの王子様が現れるから」
と慰めて、そのまま神崎の隣に行ってしまった。神崎にだけは今の情けない顔を見られたくないという恭弥の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。自分から神崎の元へと向かった。
「御幸さん」
光希が険しい表情のまま近づいてきたので笑ってやった。けれど光希の眉間の皺は更に深くなる。
「俺の前で、無理しないで」
光希はポケットを探ってティッシュを寄越した。受け取って目に押し当てた瞬間に、涙が溢れた。
「五十嵐さんは、やっくんと一緒に向こうに行ったから、俺たちはゆっくり行こうね?」
「ん」
ぽんぽんと背中を優しく撫でられて、恭弥は鼻を鳴らした。一定のリズムで触れてくる手は、恭弥を落ち着かせてくれた。だいぶ収まったところで、二人は初詣客の列へと並ぶ。
タイミングよく、お参りの直前に年が明けた。二人で明けましておめでとう、を言いあって、それから賽銭を投げ入れ、柏手を打つ。
ちらりと隣を見ると、光希は目を閉じて熱心に願い事をしていた。恭弥も自分のことではなく、光希の合格を祈った。
「ずいぶん長いこと、お願いしてたけど、何を願ったんだ?」
光希は照れたような笑みを浮かべた。
「格好よくて、頭がよくて、強い男になって、御幸さんに好きになってもらえますように、って」
欲張りですね俺、と笑う光希に、恭弥はただ、微笑んだ。
――その願いはもう、半分は叶ってるよ、きっとね。
それを言うのはここではない。きちんと結果を出してからだ。
>21話
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