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<22話
光希がお泊まりの意味をきちんと理解してからやってきたとわかったのは、夕飯も風呂も済ませて、さぁ寝るか、という段階になってだった。
そわそわと落ち着きがない様子で部屋を歩き回っていた光希に声をかけると、大げさなくらいに肩を跳ね上げて、振り返った。
風呂上がりの恭弥など勉強会での泊まりのときに見慣れているはずなのに、光希はぴしりと身体を固まった。
両想いでのお泊まりだ。急な展開すぎではないだろうか、と恭弥も考えはしたが、好きだと自覚したらいてもたってもいられずに、早く光希のものになってしまいたくなったのだ。
四月から光希が通う高校は共学だ。恭弥がいくら同世代の女子より可愛いとしても、女子高生ブランドには勝てない。もしかしたら光希はそこで新たに、恋をするかもしれない。
そうなる前に、既成事実を作っておきたかった。身体で光希を繋ぎ止めておきたかった。入学式まで日がない。もう、今日しかチャンスはない。
恭弥はベッドに腰を下ろした。隣を叩いて、光希にも座るように促す。光希は躊躇していたが、距離を取ってベッドに座った。
「光希……一緒に寝る、よね?」
「えっ、う、あ、は、はい!」
あの、と光希は持参した鞄を漁り、そろそろと二つの物を取り出して恭弥の前に並べた。
「これ、お前が自分で買ったの……?」
「いや、ええと、やっくんと、五十嵐さんが……」
恭弥の「泊まりの準備をして来い」という言葉の意味に確信が持てず、光希は案の定、神崎に電話で相談をした。するとすぐに千尋の家に呼び出され、二人の前に正座させられたという。
『告白の返事でお泊まりだろ? エッチOKってことに決まってんだろ。お前にはこれをやる』
その時に光希は、兄じゃなくて神崎に相談してよかったと心から思ったそうだ。正確に光希の片想いの相手を理解して、避妊具の他にもローションを用意しておいてくれていた。
「やっくんよりも五十嵐さんの方が、なんか怖い顔して、実用的? なアドバイスくれた」
「五十嵐先輩が? どんな?」
ええと、と真っ赤な顔をして、光希は口ごもった。これは男同士のセックスに関して、相当具体的なアドバイスをされたらしい。
「……中出しだけは、するなって。ちゃんとゴムつけろって。本当に次の日辛いから、相手のことを本当に愛しているなら、好奇心に負けずに絶対につけろって」
「……やけに実感の籠ったアドバイスだなあ」
と呟いて、恭弥ははたと、千尋が挿入される側だという衝撃の事実に思い当たってしまった。二人が付き合っているのは気づいていたが、まさかあの身長差で……と、クラクラしてしまうが、今はそれどころではない。
コンドームとローションは先輩方からのプレゼントとして、ありがたく使わせてもらおう。二人の関係性に関して思案するのは一人のときでいい。
恭弥は光希の腕を引いた。油断していた光希は、非力な恭弥の力でも、簡単に倒れこんでくる。
「ねぇ。今度は光希から、キスしてよ」
「みゆきさ……」
「じゃないと、僕が主導権握っちゃうよ?」
恭弥のセリフをどう解釈したのか、光希は俄然ムキになって、頭突きをする勢いで、唇をぶつけてきた。歯がぶち当たって痛い。
「ごめんなさい……」
「いいよ……もっと、して」
恭弥の言葉に誘われて、光希はキスを短く繰り返す。小鳥が餌を啄むような、という比喩がよくわかる、子供のキスだ。
フィクションの世界を参照すると、キスにはもうワンランク上のものがある。勿論したことはないが、うっとりと半開きになった光希の唇を見ると、試してみたいという気持ちが湧いて、恭弥はぬるり、と自らの舌を光希の口の中へと押し込んだ。
あわあわしているのが舌の動きからわかった。逃げていくのが面白くて、追いかける。すると一度、光希は息を吸い込んだ。覚悟を決めて、恭弥の舌と自分の舌を触れ合わせ、絡ませる。
一方的ではなくて、双方向的。舌同士が立てる濡れた音に照れる。唇を離すタイミングがつかめずに、たぶんスマートフォンがトークの通知音を鳴らさなければ、一時間でもそのままキスをしていたかもしれない。
>24話
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