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<4話
土曜日のお泊まり二回目のときに、ついに温厚な光希が切れた。無理はない。何せ集中したいにも関わらず、すぐ傍で譲が酒を飲みつつスマートフォンでゲームをしたり、漫画を読んだりしているのだから。
「なんでいっつも百田さんがいるんですか! 勉強見てくれるわけでもないのに!」
とうとう爆発した光希に恭弥は少しだけ申し訳ない気持ちになったが、譲は悪びれずに唇を尖らせる。
「それに、未成年なのにお酒ばっかり飲んで!」
「あ、それ間違い。俺一年浪人してるから、今年二十歳になったんだよね。俺が酒飲むのは合法です~」
譲相手では埒が明かないと判断し、光希は「御幸さん!」とこちらに水を向けた。恭弥は考えて、
「番犬、かな」
と、答えた。俺人間なんですけどぉひどい! という譲の喚き声が聞こえるが、それが最もふさわしい言葉だ、と口に出してみて初めて実感した。
中学で出会ってからずっと、譲は恭弥の隣にいる。どうしてそんなに尽くしてくれるのか。聞いたことはないけれど、とっくに恭弥は気づいている。
「番犬でもなんでもいいですけど、俺の勉強の邪魔なんです! 気が散って集中できないし、ストレスになるんです!」
百田さんのせいで海棠に落ちたら、恨みますからね!
涙目でそこまで言われてしまっては、さすがに恭弥も譲をそのままにしておくことはできない。最優先すべきは、光希の合格であって譲を近くに置いておくことではない。
話し合いの結果、平日は光希を無事に家に届けるために譲が必要であることは、光希自身にも納得させた。その代わり土曜の泊まりの日は譲は参加しないことになった。
恭弥は「ごめん」と謝罪して、玄関口まで譲を送る。
「なに謝ってんの。謝るのは、俺があの子にでしょ?」
「ああ……まぁそうかもしれないけど、でも」
それよりも、と譲は真面目な顔になった。
「本当に、大丈夫か?」
二人きりで、と譲は言った。瞬間、何を言われたのか理解しがたくてぽかん、とした恭弥だったが、意味を反芻して笑いだした。
「大丈夫か、って。相手は子供だよ?」
何かがあるはずもない。実際勉強を教えているときに偶然手が触れあったことは何度もあるが、その度に光希はぎょっとしたように反応し、顔を真っ赤にする。そんな純情少年に、恭弥をどうこうする度胸などあるわけがなかった。
「……子供だから、心配なんだよ」
独り言のように小さな声で零した譲に、恭弥は首を傾げた。
>6話
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