愛奴隷~Idol~(2)

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 翌日一人で貴臣は、マネージャーの言っていたエステ店の入っているビルの前に立っていた。地図に書かれているビルの名前と看板を確認する。合っている。だが不審だ。雑居ビルというのがしっくりくるこの建物とエステがどうも結びつかない。チェーン店ではなくて個人経営のオイルマッサージ店で、すっごく素敵なのよ~、とマネージャーは言っていたが、そうはとても見えない。

 迷っている間にも予約時間は刻一刻と迫っていて、意を決してビルの中へと足を運んだ。メモによると店はこのビルの四階。エレベーターに乗って四階のボタンを押し、ついたところでまた貴臣は首を捻る。

 普通店の前にはさすがに看板があるのではないだろうか。扉の前にも何にもなくて貴臣の不安感を煽る。一度帰ってマネージャーに連絡を取るべきかと逡巡していると、扉が中から開いた。出てきたのはばっちり化粧をしていてそれが似合っているとは言えなくもないが、明らかに男性だった。小柄でマニッシュな感じが中性的には見える。

「あら……早かったのね?」

 その言葉に「え?」と思ったところで引き返していればよかったのに、目の前の小柄なオネエの男が強引に貴臣の手を掴んで中へと引き込んだため、それは叶わなかったのだった。

 部屋の中はエステ店と言われて納得できる、アジアン雑貨で満載であり、花のいい香りもしていたので貴臣は少しだけ安心した。さっさとシャワー浴びてきて、とタオルとエステで使用する紙製の下着とバスローブを渡されてシャワールームへと押し込まれる。岩盤浴とかサウナマシンの中に入っていないのにいきなりシャワー? と思っていると、「早くしなさいよ!」と言われて慌てて蛇口をひねる。

 こっちは客なのになんであんなに高圧的なんだ、とぶつぶつ言いながらシャワーを手早く済ませ、バスローブと下着を身に着けて外へ出ると、「ここ座って」と鏡の前に座らされ、温かいお茶が渡される。冷たい方がいいのだけれど、身体は冷やしちゃダメに決まってんでしょうが! と怒られる。

「もうちょっとで来るから待っててね」

「あの、来るって……」

「あなたのお相手に決まってんでしょ、何言ってんのよ」

 つまりは自分の担当になるエステティシャンということか、と納得をして、このオネエが担当じゃなくてよかったと貴臣は心底安心した。延々とこの調子で喋られたら癒されるどころの騒ぎじゃない。

「あなたラッキーよぉ」

「ラッキー?」

 オネエはドライヤーで貴臣の髪の毛を乾かしながら上機嫌で鼻歌を歌いつつ話しかけてくる。

「え、知らないの? 牛島さんが来てくれるなんて滅多にないのよぉ。引退してからこっちの仕事にはほとんど来てくれなくなったのに、ちょっとミスって人間足りないからってわざわざ来てくれるんだからねえ」

 カリスマエステティシャンって奴なのか、と貴臣は納得して、「それは……光栄ですね」とあたりさわりのない返事をした。

「アタシもしてもらったことあるけれど、ほんっと気持ちいいんだから。おしっこ漏らしちゃいそうなくらい! 羨ましいわぁ」

 下品……と貴臣は内心で辟易しながら彼(と言ったら怒られるかもしれないが)の雑談を聞き流し、カリスマエステティシャンの来訪をわくわくと待った。

3話

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