愛奴隷~Idol~(32)

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31話

「すーちゃん……?」

 どうしてここにいるの。

 弱々しい声で彼の、昴の名前を呼ぶとじっとこちらを見つめていたらしい昴がはっと弾かれたように動きだし、牛島の腕の中にいる貴臣の肩を抱いて引き寄せた。

「すーちゃ……」

「これ以上こいつのこと、泣かせるな」

 まるで愛しい人を、恋人を守るかのような台詞と行動に、貴臣はこれが夢なのではないかと思う。現実世界ではもう自分はとっくに壊れていて、幸せな、自分にばかり都合のいい夢を見ているのではないか。

 けれどぎゅ、と抱き寄せられた体温は本物だった。薬で熱っぽい身体が、昴に触れている箇所だけひんやりとして気持ちがいい。普段は貴臣の方が体温が低いのに。

「君には関係ないだろう? 貴臣は俺と奴隷契約を結んでるんだから。部外者は引っ込んでてくれるか?」

「どれ……!」

 まさかそんな、という顔で昴が見てくるのがいたたまれなくて、貴臣は視線を逸らした。その行動が牛島の言葉が真実だということを如実に語っているのだと昴は悟る。が、牛島を睨みつける目の強さは変わらない。

「……そんなの、駄目だ!」

「すばる……」

「貴臣が奴隷だとか、そんなのは絶対に、駄目だ!」

 どうして、と牛島は問う。声には怒りも何もない。ただ子供に問いかけるように、牛島は言う。

「どうして君は、貴臣にそんなに構うんだい? ゲイは嫌いなんだろう? 男に抱かれてよがっていた貴臣のことは、もう嫌いになったんじゃないの?」

 改めて言葉にされると、羞恥に襲われる。昴の目の前でアヌスを貫かれて涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら、ペニスから悦楽の蜜を垂れ流していた自分を思い出して、貴臣は下を向いた。

 昴がゲイフォビアでなかったとしても、一般的ではないセックスを見せられて、相手に好意を抱き続けることができる人間が、どれくらいいるだろうか。男同士のセックスであったとしても、ベッドの中で抱き合い触れ合うものと、トイレという誰が来るかもわからない狭い空間で、誰かに見られることを期待しているようなものとでは、見てしまった側の印象もだいぶ違うだろう。

「……嫌いに、なるわけないだろ!」

 え、と貴臣は顔を上げた。昴は貴臣ではなく、真っ直ぐに牛島を見ている。ふぅん、と言うように牛島は片眉だけぴくりと跳ね上げた。

「ゲイだとかそういうのどうでもいい! 俺は、こいつのことが……!」

 その後は続かなかった。はっと弾かれたように、昴は黙ってしまった。こいつのことが、の後にはどんな台詞が続くのだろうか。

 ――期待、しちゃうだろ……

 ゲイなんて嫌いだ、と怖い顔をして言っていた昴だ。決してそんなことはないだろう。最後まで言わないということは、想像、いや、妄想の余地は許されているということだ。けれど牛島は、その曖昧さを許さない。

「貴臣のことがどうだって言うんだい?」

 言わなければ離さない、と昴の腕の中から牛島は貴臣を奪う。腿の内側に触れられて、思わず熱い息が漏れる。

「こんなに淫乱で、男を求めている貴臣を俺から引き離すっていうなら、責任取ってもらわないといけないんだけど」

 君にはそれができるの?

 牛島は意地が悪い問いかけをする。昴は眉根を寄せているからてっきり考え込んでいるのかと思ったが、ただ単に、覚悟を決めているだけの様子だ。深呼吸をひとつして、「取る。取れる」と真顔で牛島に応えた。

 これに驚いたのは貴臣だ。

「昴……無理しないで。無理だよ。だって、男嫌いだろ……?」

「関係ない。俺は貴臣だったら、大丈夫だ」

「すば……」

 視線がようやくかち合った。

「貴臣……」

 言葉はもう、いらなかった。昴の目は雄弁に語る。貴臣はまだ信じられない、という気持ちで首を横に振る。そうすると、ふ、と牛島の力が抜けた。ため息交じりに呆れた様子で、

「もう付き合っていられないね」

 と言う。とん、と突き飛ばされると力の入らない貴臣の身体は床に崩れ落ちた。昴が駆け寄って、抱き寄せる。大丈夫か、と言うその声はとても、優しい。うん、と頷くと髪の毛に昴の指が絡んで弄んだ。

「ここは俺のプライベート空間だから。いちゃつくなら他の部屋を貸してあげるから、そっちに行ってくれない?」

 しっしっ、と動物を追い払う仕草を見せた牛島に、貴臣と昴は顔を見合わせる。だからいちゃつくなって言ってるだろ、と牛島にせき立てられて、二人は移動した。シーツを貴臣の身体に巻き付けて、当然一人では歩くことができない貴臣を昴は支えた。

33話

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