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<7話
ハッテン場って言ってわかるかな、と牛島は貴臣の肩を抱きつつ誘導しながら言った。わかるようなわからないような、わかりたくもないような気がして曖昧に頷くと、「要するにこのバーで、気に入った者同士が合意の上でセックスできるようにね、いくつか奥にベッドルームを用意しているんだ」と牛島は説明した。身構える貴臣に微笑んで、
「行儀の悪い客はお断りしているから大丈夫さ」
と言う。
「そのうち君も遊んでみたらいいんじゃないかな」
貴臣は首を横に振る。
「俺は、ゲイじゃないですから……」
牛島は怪訝な顔をする。そのまま歩きつつ貴臣の肩から腰へと腕を滑らせる。その抱き方がセクシュアルで、貴臣は反射的に逃げようとする。
何室かあったベッドルームを素通りして、その奥のやけに豪華な扉の前に連れてこられる。ここは特別な部屋、と牛島は扉を開けた。
暗い部屋の電気がつくと、キングサイズのベッドが中央に鎮座しているのがまず目に入る。そこまではよかったのだが、周辺に目をやって貴臣は絶句した。
食器棚のようなガラス戸のついた棚には、おぞましい形状と色彩を持つ玩具が収められている。バイブレータやローターや電気マッサージャーなどのアダルトビデオでも見られる一般的なものから、貴臣にはどうやって使うのかわからないものまでいろいろ置いてある。
窓のない部屋の壁の辺りには鎖が取り付けられていて、そこで拘束されることを考えただけでぞっとした。それが恐怖だけとは限らないのがまた恐ろしい。
「ここは特別な部屋だって言っただろう? 俺のお気に入りの子しか入れないんだよ、本当は」
「お気に入り……?」
本当は、ということは貴臣はこの部屋への入室条件を満たしていないということだ。彼の言うお気に入りとは、いったいどんな人物なのだろう。貴臣は先ほどの店員たちを思い出す。二人とも躾けが行き届いていると言っていたのは、もしかしてこの部屋で、鎖に繋がれ玩具で弄ばれたりしたのかもしれない。
貴臣の身体を牛島が後ろから抱く。突然のことに身体は強張ったが、耳や首筋を甘く噛まれ、徐々に貴臣の意識が蕩けていく。
本当はやっぱり、少し怖かった。前回は薬の効果があった。けれど今日は、アルコールが少し入ったとはいえ、ほとんど素面の状態で、男にこのベッドの上で抱かれるのだと考えると、大丈夫なのか、と不安がよぎる。
「ゲイじゃないって君は言うけど、ゲイじゃないのに俺に抱かれるの? 本当に?」
ああ、この男は本当に優しいのだ。普通の部屋ではなくて調教部屋のような特別室を見せることで、自分が本気かどうかをもう一度考え直させようとしているのだ。頬を滑った牛島の手に、貴臣は手を添える。
「……大丈夫、です。……今もこうやって抱きしめられて、疼くんです、身体……」
思い切って牛島の手を自分の股間に持っていく。背後で牛島が息を飲むのがわかった。もうすでに反応しかかっているペニスを牛島の掌に擦り付けて、ん、と声を上げる。
「……俺、へんたい、なんです……たぶん」
生まれつきの変態だった。今まで表出しなかっただけで、あのとき鍵が外れて変態の自分が顔を出した。ああいうことをされたくてされたくてたまらなくて、オナニーをするのも普通じゃ物足りなくて、困ったから牛島を頼った。
「牛島さ、あっ」
ベッドに突き飛ばされて、どさり、と倒れる。柔らかなベッドだから怪我をすることはなかったが、驚いて身体が一瞬動かなくなる。その様子を見計らった様子で、ぎしりとスプリングを軋ませて、牛島が貴臣の身体に乗り上げる。恐る恐る顔をそちらに向けると、ネクタイを外しながら牛島は笑っていた。
もっと雄の顔で、と雑誌グラビアのときにカメラマンから言われることがあるが、本質的なところで自分はその要求を理解できていなかったのだと思い知らされる。雄の顔、とはこういう顔だ。女を、雌を――この場合は貴臣が雌ということになるわけだが――手に入れて、その強いフェロモンで 逃さない。
ぞくり、と震えたのは快楽への期待だ。
「じゃあそんな変態なところ、見せてよ」
>9話
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