恋は以心伝心にあらず(16)

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15話

『勝ちたいなら、まずは敵を知らなきゃ』

 幹男のアドバイスを活かすべく、まずは九鬼に酒を勧めた。

 初めて関係を持ったときもそうだったが、彼は酔うと判断能力が鈍り、多少饒舌になる。そして自分より酒に弱い。

「ほら、お疲れさん」

 傾けたグラスにビールを注いでやる。次は焼酎にするか日本酒にするか。最初からちゃんぽんで飲ませる気満々である。

 名物の唐揚げが来たときには、九鬼の目はすでに据わっていた。ただでさえよくない人相が、極悪人のものに変わっている。

 まぁ、そんな九鬼も男前だ。あばたもえくぼ、というやつである。

「骨付きか……」

 言いながら、九鬼は手づかみでいった。骨ごと食らわんばかりに豪快に口を開け、肉を引きちぎった。指に移った油を舐める仕草に、身体の奥がぞくぞくした。

 この手で、唇で触れられたい。これまでどうして、我慢できたんだろう。見れば見るほど、九鬼の身体は、千隼の好みであった。

「食え」

 見惚れるばかりで、完全に手が泊まっている千隼に、九鬼は唐揚げの入った大皿を寄越す。言葉は強い命令形だが、彼の気遣いだ。

 千隼はひとつだけ、自分の皿に取った。

「残りは食えよ。好きだろ、唐揚げ」

 と、皿を押し戻す。

 九鬼はよく食べ、よく飲んだ。常は引き結ばれている唇が、ゆるく開き始めたのをを見計らって、千隼は切り出す。

「仕事、忙しいのか?」

「んん……」

 存外、可愛らしい仕草で九鬼はこくりと頷いた。

 これがギャップ萌え、というやつか。不意に心を掴まれかけたが、きゅんとしている場合ではない。

 再来月の盆休みを平穏に過ごすために、様々な作業を前倒しで進めている最中で、来月になればもっと忙しくなる。

 そんな愚痴を聞いたところで、千隼は少しずつ本題に迫っていく。

「編集部員が増えれば、負担も減るのにな。ちなみに今って、何人で動いてんの?」

 アダルト向けのコミックや官能小説、AV女優のヌード写真集など、読み手の限定される書籍を専門に扱う出版社は、そもそも規模が小さい。

 彼は指折り数えるまでもなく、「社員が四人。外部の編集スタッフが二人の計六人」と即答する。

 千隼は唇を舐めて、次の質問へ。

「へー。それってさ、全員男? エロ漫画なんて、女の人は嫌がりそうじゃん」

「いや。女性も二人いる」

 千隼の目が光ったことに、酩酊した九鬼は気づかない。

17話

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