恋は以心伝心にあらず(20)

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19話

 それから、九鬼は積極的に千隼をベッドに誘うようになった。

 外ではあの女としているくせに! 

 なびきそうになる度、敵の顔を思い出して、のらりくらりとかわしている。

 長い付き合いで、なんとなく九鬼の感情は悟ることができるようになったが、だいぶイライラしているようだった。

 もういいんじゃないか、と幹男に相談してみたが、「ダメよ! 女なんかと比べられていいのっ?」と、なぜか自分よりもヒートアップしている。どうやら彼にも、何かあったらしい。

 水を向けた千隼に、幹男はよよよ、と泣きながら、いい感じになっていた男を女に取られた、と嘆いた。

『やっぱりノンケは敵よ、敵!』

 喚く幹男を慰めつつ、明日は我が身だと千隼は自身に言い聞かせた。

 今やってる作業が一段落したら。

 九鬼はそう言って、千隼を口説いてくる。

 相変わらず言葉は足りないし、区切りがついたところで、漫画編集は日々忙しい。

 千隼は曖昧に微笑んで、何も言わなかった。それを拒絶だと察してほしいものだが、九鬼には伝わらない。

 どうにかして、次の拒否の理由を考えないとな……。

 九鬼が出勤したあと、自分のベッドに寝転んだ。床で寝るのは、やはり安眠とはいえない。

 うとうとしていたら、枕の下で謎の振動を感じた。自分のスマートフォンは、少し離れた棚の上の充電スタンドに刺さっている。

「あいつ、忘れてったな……」

 そういえば今日は、珍しく寝坊して慌てて出て行った。床で寝ていた千隼を踏みつけても、謝る余裕すらなかった。

 やっぱ、疲れてんじゃん。飽きもせず、セックスをしようと言ってくるけれど、そんな気力もないくせに。

 ケースに入っていないスマートフォンを、ぼんやりと眺めていると、再び震えた。メッセージの通知だ。

 さすがにこれを見るのは、ルール違反だ。彼女のことを知りたくても、決して手を出すことはなかった。慌てて千隼は、画面を暗くして伏せる。

 仕事用のスマホがあるとは聞いていない。会社に固定電話はあるにせよ、なければ困るだろう。

「仕方ない。届けてやるか」

 眠い目を擦り、ベッドから起き上がって大きく伸びをした。

 ちょっと考えれば、これはチャンスだった。さすがに何の用もないのに、九鬼の会社に行くことはできない。本当に、職場にあの女がいないのかを偵察に行く、よい機会じゃないか。

 千隼は機嫌良く、出かける支度を始めた。

21話

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