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<25話
千隼が鍵を開け、中に入った瞬間、正面から抱き締められた。
服を着たままのスキンシップですら、なかなかすることがなかった。いつだってこの部屋で行われたのは、千隼が一方的に上に跨がり、腰を揺らすだけのセックスでしかなかった。
九鬼はその立派な体躯にふさわしい強引さだった。顎を掴み上向かせ、分厚い唇で、千隼のそれをむしゃぶりつくした。
息継ぎの暇すらなく、吐き出した息も、快楽とためらいの喘ぎも全部、飲み込まれてしまう。
興奮を抱くも、千隼の中にはまだ、ほんのわずかな理性が残っていた。
ここは玄関だし、今は昼間、季節は夏。
場所も時間も、ここに来る間に汗ばんだ身体も、何もかもがこのまま行為になだれ込むにはふさわしくない。
九鬼の背を叩き、どうにかキスを中断させる。揉まれ吸われ、痺れるほど弄ばれた唇や舌は、腫れぼったく熱を帯びている。どうにか動かして、
「まだ明るいし……せめてシャワーは浴びよう」
そう懇願すると、九鬼は少し考えるような素振りを見せた。ただ、その間も千隼の身体を離さなかった。
どこにそんな情熱を秘めていたのか、この男にはまだまだ自分の知らない顔があるのではないか。
九鬼のミステリアスな部分に触れた気がした。どぎまぎした千隼を、彼は筋肉に任せて風呂場へと連れていく。
いや、シャワーを浴びるのはいいのだが!
「い、一緒に?」
さも当然のことを聞くなとばかりに、さくさくと手際よく脱ぎ、千隼の衣服も剥いでいく九鬼に、抗う暇もなかった。
待て待て待て、と制止できたときには、すでにシャワーを頭から浴びせられていた。伝っていく水と同時に、九鬼の長い指が千隼の身体を辿っていく。
「んっ」
火照る肉体を、さらに熱い指先が掠めていく。ぬるめに設定されたシャワーの水が、すぐに温まって蒸発してしまいそうなほど、初めて触れられた感動と衝撃は、千隼を高ぶらせた。
九鬼の愛撫は執拗だった。今までゼロだった接触を、取り戻すかのように。
ボディソープを手のひらに取り、雑な手つきで千隼に泡を塗りたくっていく。千隼を大切にしていないのではなく、恋人と早く繋がりたい一心のことであると、理解している。
泡だらけの指が思わせぶりに乳首を通過するたびに、千隼は唇を噛んだ。
風呂場は声が反響する。可愛くもなんともない声を上げて、九鬼の勢いを削いでしまうことに繋がるのが怖いのだ。
>27話
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