恋は以心伝心にあらず(5)

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4話

 浴槽にゆっくりと浸かって身体をほぐしながら、千隼は九鬼との関係が、単なる同窓生でなくなったときのことを思い出していた。

 あの日、「明日も仕事だから」と、二次会に向かう同級生たちを見送った。九鬼は当然、これ以上酒の肴にされるのはごめんこうむると、きっぱり断った。

 必然、二人で駅に向かうことになる。

 千隼はほろ酔いだったが、九鬼は怒りを押し殺すかわりに、飲み過ぎてしまったらしい。

 真冬の身を切る風を受け、むしろ心地よさそうにしていた。

 九鬼の勤め先について話を始めたのは、どちらが先だっただろうか。「助かった」そう言った、九鬼だったかもしれない。

 彼はあの場では沈黙を貫き、肯定しなかったが、やはり童貞だった。未経験のまま、卑猥な漫画の編集ができるのかという点については、同級生に突っ込まれるよりも前から、おおいに悩んでいた。

 漫画の編集になれるならジャンルはなんでもいいと、片っ端から選考を受けまくった結果、内定が出たのが一社だけだったという。

 性体験だけが問題ならば、手っ取り早くセックスしてしまえばいい。

 風俗とかは? と提案した千隼に、九鬼は首を横に振った。

 金で女を買うのは、人でなしのすることだと頑なである。九鬼は強い倫理観の持ち主であった。

『じゃあさ』

 どうしてそんな気分になったのか、今でも千隼は不思議で仕方ない。

 酔いで足がもつれたフリをして、彼の肉体にしなだれかかる。高校時代よりも厚みを増した胸板に、抱き留められた。

 皆の前で見せた涙は偽物だったが、九鬼にだけ見せる瞳は、本当に濡れていた。滲む視界の中でも、九鬼は変わらぬ仏頂面だった。

「『じゃあ、俺としてみる?』なんてな」

 戸惑いとともに身を引き剥がした九鬼に、千隼は「男相手なら、最悪ノーカンにできるし」だのなんだの、下手な理屈をこねた。こねまくった。

 アルコールが回って思考能力が落ちた九鬼が、「それもそうかもしれない」となったときには、すでに当時住んでいた自分のアパートに連れ込んでいた。

 そこで身体の関係になってから、ずるずると六年。

 浴槽から上がった千隼は、バスマットの上に座り込んだ。持ち込んだローションを手のひらに取り、何度かにぎにぎと馴染ませ、温める。

 自分自身、なぜこの関係を続けているのかわからないんだから、九鬼の真意など想像もつかない。

 ただ、セックスをしているときは、彼の鉄面皮にヒビが入る。喉の奥から漏れる吐息の熱さから、快感を得ていることだけは、はっきりとわかる。

 千隼自身、九鬼との身体の相性のよさは感じている。しっとりと肌同士が合わさって、満たされる感覚は、これまで相手をしてきた何人かの男たちとの行為よりも、得るものが大きい。

6話

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