甘えたDomの背中には(12)

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(11)

 控えめなノックの音がしたのは、至がある程度泣き止んでからだった。秘密の話をするわけだから、防音はしっかりしているだろうに、高月の空気を読む能力が高すぎる。

 抱き合っていた身体を名残惜しく離してから、部屋の主を呼び入れる。

 彼は至と桃治の顔を交互に見て、にこりと笑んだ。

「憑き物が落ちたような顔をしていますね、お二人とも」

 その憑き物を落とすのがあんたの役割だと思っていたんだが……とは、桃治は思いはしても言わなかった。なんとなく、怒らせたらいけない人種のような気がする。

「ありがとうございました」

 泣き顔をまじまじと見られるのを恥じらったのか、至は頭を下げて、すぐにカウンセリング室を出る。後からついていこうとした桃治は、高月に呼び止められた。

「せっかくお越しいただいたので。お守りですよ」

 言って、小さな巾着を寄越す。触って振って確認すると、ビー玉よりも一回り小さい、硬い球状のものが入っている。パワーストーンみたいなものだろうか。開けようとするのを、高月は制止した。

「ああ、お守りの中は見ちゃだめですよ」

 そんなものか、と桃治はおとなしく言うことを聞いた。

「でもこういうのってめちゃくちゃ高いんじゃ?」

 何せ、本物の霊能力者によるお守りだ。うん十万円くらい請求されそうだ。

 突き返すべきか悩む桃治に、

「ただの気休めです。手間賃だけいただければ」

 鈴女に聞いていた代金に色をつけた程度だったので、桃治は素直に受け取ることにした。触れていると、なんとなく心が落ち着くような気がしたので。

「桃治さん」

「ああ、今行く」

 高月に一礼して、桃治は早足に相談所を出た。

「帰りは俺が運転するから」

 ぐずぐずに目が腫れている至の視界は少し狭くなっているだろう。安全のためにも請け負った。一度通った道だし、ナビもある。

(それに)

 まっすぐ家に帰りたくないという気持ちがあった。

「桃治さん、道違いませんか?」

 ぼんやりと車窓を眺めていた至が、不意に話しかけてきた。

(まあ、ばれるか)

 風景は住宅街を超え、繁華街。それも裏通りへ行こうとしている。勤め先のSMバーにもほど近い。

 桃治は一度、車を路肩に止めた。ハンドルにもたれ、至に顔を向ける。

「あのさ」

「はいっ」

 教師に当てられたときの小学生のようないい返事に、桃治は笑う。

「あんな命令で俺のこと傷つけて、それでおしまい?」

「あ……」

 平気なフリをしているが、意に沿わないコマンドが流れ込んできた胸の奥は、まだ微妙に具合が悪い。上書きをしてもらわなければ、うんうん唸って眠れぬ夜を過ごす羽目になりそうだ。

「まぁそれはいいとしても……俺が触りたいし、触られたいから」

「っ」

 都合のいい相手から、セックス込みの関係へ。恋人同士になれたら、嬉しい。

「まあ、俺のがだいぶ年上だしさ。嫌だったら嫌って言ってくれてもいい……」

「いや、します。僕が、桃治さんに触ります。抱きます」

 食い気味に言われ、お、おう……と、喜ばしいのに微妙な反応になった桃治をよそに、至は近場のラブホテルを調べる。駐車場もある店をピックアップして、スマホの地図に従って車を再び発進させた。

 

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